和だし帖|うま味と季節をたのしむ台所便り(全5回)

日本の食卓に欠かせない「だし」。
この連載では、だしの引き方や味わい、保存や文化の知恵まで──台所で役立つヒントをお届けします。

少しだけ手間はかかりますが…だしをひく時間は、和食の味を決める大切なひととき。

けれど「せっかく取っただしをどう保存すればいいの?」「出がらしは捨てるしかない?」と迷った経験はありませんか。

ほんの少し工夫すれば、だしは数日〜数週間おいしく使い回すことができ、出がらしも立派なごちそうに生まれ変わります。

今回は、冷蔵・冷凍での保存方法や、出がらしの再活用レシピ、忙しい日に助かる“だし氷”や“だし足し”のコツまでご紹介。
だしを最後まで、無駄なく、おいしく楽しむ知恵をお届けします♪


だしは冷蔵で何日もつ?冷凍はできる?

せっかく丁寧に取っただし、できるだけ長くおいしく使いたいものですね。
ここでは、冷蔵・冷凍の保存期間や、風味を保つためのコツをご紹介します。

  • 冷蔵保存:一番だし・二番だしともに2〜3日以内が目安。
  • 冷凍保存:1ヶ月程度可能(風味はやや落ちるため、煮物や味噌汁向き)。

冷凍は氷型で小分けにしておくと、必要な分だけ取り出せて便利です。

だしを長持ちさせるには、容器選びが意外にも大切です。用途や保存期間に合わせて容器を選んでみましょう。

  • 耐熱ガラス容器:におい移りしにくく、冷蔵・冷凍両対応。
  • 製氷皿+保存袋:小分け冷凍に最適。
  • 密閉プラスチック容器:軽いが、長期保存はにおい残りに注意。

保存の仕方ひとつで、だしの香りや風味は大きく変わります。基本のルールを守って、安心しておいしさを保ちましょう。

  • 粗熱を取ってから冷蔵・冷凍へ
  • 冷蔵庫は4℃以下、冷凍庫は−18℃以下
  • 冷凍はできる限り急速冷凍に(アルミバット使用推奨)
  • 解凍は冷蔵庫内か加熱で。常温放置は避ける

コラム①|冷やすことも“調味”のひとつ

だしはひいた直後の香り立ちも魅力ですが、一晩冷蔵庫で休ませることで味わいが落ち着き、まろやかさが増します。

これは、うま味成分が全体に行き渡り、角が取れるため。
冷やしてから温め直すと、香りとコクのバランスが変わり、いつもと違う深みが楽しめます。

二番だし・出がらしの再活用レシピ

だしをとったあとの二番だしや出がらしは、まだまだおいしい力を秘めています。
ほんのひと工夫で、ご飯のお供やおかずに早変わり。
ここでは、日常の食卓で役立つ簡単レシピをご紹介しますね♪

だしをとった後のかつお節や昆布を、香ばしく炒めて作るご飯のお供。冷蔵で3~4日程度保存できます。

出がらしふりかけレシピ

材料(作りやすい分量)

  • 出がらしかつお節…30g
  • 出がらし昆布(細切り)…20g
  • 白ごま…大さじ1
  • しょうゆ…大さじ1
  • みりん…大さじ1

作り方

  1. フライパンに出がらしかつお節と昆布を入れ、弱火で水分を飛ばすように乾煎りする。
  2. しょうゆ、みりんを加えてさらに炒め、水分が飛んだら白ごまを混ぜて完成。

補足
昆布や厚削りが大きい場合は、フードプロセッサーやハサミで細かく刻んでから炒めると、口当たりがよくなり混ざりやすく仕上がります。


甘辛く煮詰めた昆布としいたけは、ご飯にもお茶漬けにもぴったり。冷蔵で1週間ほど保存可能。

昆布としいたけの佃煮レシピ

材料(作りやすい分量)

  • 出がらし昆布(細切り)…50g
  • 出がらし干ししいたけ(薄切り)…2〜3枚分
  • しょうゆ…大さじ2
  • 砂糖…大さじ1
  • みりん…大さじ2
  • 酒…大さじ1

作り方

  1. 鍋に昆布としいたけ、調味料をすべて入れる。
  2. 弱火で汁気がほぼなくなるまで煮詰める。

煮物に出がらし昆布を加えることで、うま味がアップ。野菜の味が引き立ちます。

出がらし昆布入り根菜煮レシピ

材料(2〜3人分)

  • 出がらし昆布(細切り)…30g
  • 大根…1/4本
  • にんじん…1本
  • こんにゃく…1/2枚
  • 二番だし…300ml
  • しょうゆ…大さじ2
  • みりん…大さじ1
  • 砂糖…小さじ1

作り方

  1. 野菜とこんにゃくは食べやすい大きさに切る。
  2. 鍋に二番だしと具材を入れ、調味料を加えて弱火で15〜20分煮る。

\「二番だしの引き方」はこちらの記事へ/


香りは控えめながらも、しっかりとしたうま味が残る二番だしは味噌汁に最適。

二番だしの味噌汁

材料(2人分)

  • 二番だし…400ml
  • 好みの具材(豆腐、わかめ、ねぎなど)…適量
  • 味噌…大さじ1.5〜2

作り方

  1. 鍋に二番だしと具材を入れ、具材に火が通るまで煮る。
  2. 味噌を溶き入れ、沸騰直前で火を止める。

コラム②|出がらし昆布の“ぬめり”は栄養の証

出がらしの昆布を切ると、包丁やまな板にぬめりが残ることがあります。
これは水溶性食物繊維のフコイダンやアルギン酸によるもので、体にうれしい成分です。
煮物や和え物に加えれば自然なとろみとコクが出て、調味料を減らしても満足感があります。


忙しい人におすすめ「だしパック」と「だし氷」

「だしをひく時間が取れない…」「今日は少し面倒だな…」なんていう日もありますよね。
そんなときは、だしパックや冷凍の“だし氷”を活用すれば、短時間でも本格的な風味の料理ができます。

毎日だしを引くのは大変…というときに便利なのがだしパック。市販品はもちろん、自家製も意外と簡単に作れます。手軽さと安心感を両立できる方法です。

  • 市販だしパック:手軽で失敗が少ない
  • 自家製だしパック:かつお節・昆布・干ししいたけを細かくし、ティーバッグに詰めて常備

作り置きしただしを「氷」にして保存すれば、必要なときにすぐ使えて便利。忙しい日の味噌汁や煮物も、味が決まりやすくなります。

  • 製氷皿にだしを入れて冷凍、固まったら保存袋に移す
  • 必要な分だけ味噌汁や煮物に投入可能
  • 冷たい麺つゆや和え物にもそのまま使える

コラム③|“氷”にしてしまえば味は逃げない

だしを冷蔵で置くと香りが徐々に抜けますが、冷凍すれば風味の劣化はゆるやか
特に「だし氷」は必要な分だけ取り出せて、味噌汁や煮物にポンと入れるだけ。
夏場は冷たい麺料理に浮かべても涼やかな演出になりますよ。


味が決まりにくいときの“だし足し”テクニック

「もう少し風味がほしい」「なんとなく味がぼやける」…そんなときの救世主が“だし足し”。料理の途中でも使える、香りとコクを戻す方法をご紹介します。

「ちょっと味がぼやけてしまった…」というときでも大丈夫。途中からだしを足すことで、香りや深みをもう一度よみがえらせることができます。

  • 追いがつお:削り節を熱湯で30秒煮出し、こして加える
  • 濃縮だし:冷凍しただし氷を直接加えて風味を補強

味見をして「物足りない」と感じたら、塩やしょうゆより先に“だし”で整えてみる。こうすることで、塩分を増やさず味の輪郭がはっきりします。


おわりに|日々の台所で生きる、だしの知恵

だしは、一度ひいたらその日のうちに使い切るもの――そう思っている方も多いかもしれません。
けれど、正しい保存方法を知れば、冷蔵や冷凍でおいしさを保ち、忙しい日々の味方に!

出がらしも、ひと工夫でふりかけや佃煮に姿を変え、もう一度食卓を彩ってくれます。
ちょっと意識するだけで、だしはもっと身近に、もっと頼もしい存在になります。

今日の台所に、ぜひ“だしを最後まで使いきる”という小さな習慣を加えてみませんか。


参考文献

  • 日本食品科学工学会誌 Vol.62 No.4(2015)「だし成分の経時変化」
  • 辻 嘉一『和食の基本』柴田書店
  • 農林水産省「食物繊維のはたらき」
  • 齋藤 忠夫『昆布の文化誌』成山堂書店

◇次回予告

だしは、いつから日本人の心に根付いたのでしょうか。
次回は「うま味」の科学や精進料理・郷土料理とのつながりをたどりながら、だし文化の魅力をひも解きます。
和のこころを感じる一杯が、日々の食卓をさらに豊かにしてくれるはずです。


\和だしシリーズ一覧はこちら/

【和だし帖|うま味と季節をたのしむ台所便り】
(以下の日程で投稿予定です)

第1回:はじめての「だし」入門
第2回:だしの味くらべ 〜素材別で変わる香りとコク〜
第3回:四季のだしごはん 〜春夏秋冬で味わう、だしの魅力〜
第4回:だしの保存と活用術 〜作り置き・冷凍・再利用〜(この記事です)
第5回:だしと和のこころ 〜味覚を育む、だし文化の魅力〜(8/25)