日本の食卓には、季節ごとに受け継がれてきた「行事食」があります。
お正月のおせちに始まり、ひな祭りのちらし寿司、十五夜の団子やおはぎ…。
旬の食材をいただきながら、家族の健康や幸せを願うこれらの料理は、自然や暮らしへの祈りそのものです。

ここでは、1月から12月までの行事と食べ物をカレンダー形式でまとめ、さらに行事食の背景も少しご紹介しています。
ぜひ献立やレシピづくりのヒントにしてみてくださいね。


📑 年間行事食カレンダー

行事行事食・供物
1月元日/七草/鏡開き/小正月/左義長おせち、雑煮、七草粥、おしるこ、小豆粥、団子
2月 節分/立春/初午恵方巻、いわし、豆、立春大福、いなり寿司
3月 桃の節句/春彼岸/春祭りちらし寿司、ひなあられ、菱餅、白酒、ぼた餅
4月花見/灌仏会花見団子、桜餅、甘茶
5月端午の節句/さなぶり柏餅、ちまき、赤飯
6月夏越の祓/農耕行事水無月、麦料理、雑穀粥
7月 七夕/お盆(地域差)そうめん、索餅、精進料理、団子、きゅうり馬・なす牛
8月お盆/地蔵盆/盆踊り迎え団子、送り団子、精進料理、スイカ
9月重陽の節句/十五夜/秋彼岸/秋祭り菊酒、栗ご飯、月見団子、里芋、おはぎ、新米、秋刀魚、梨、ぶどう
10月 十三夜/秋祭り/神迎え祭栗、枝豆、月見団子、新米、さつまいも料理
11月七五三/新嘗祭/酉の市千歳飴、赤飯、新米、旬野菜、縁起菓子
12月 冬至/大晦日/お歳暮・餅つきかぼちゃ、小豆粥、ゆず湯、年越しそば、餅

行事食をもっと楽しむために

ここからは、年間を通して行事食を味わううえで知っておきたい背景や知恵をご紹介します。
なぜ行事食が生まれ、どのように受け継がれてきたのか。
そして現代の私たちがどう楽しめるのかを、順を追って見ていきましょう。

行事食には「邪気を払う」「健康長寿を願う」「五穀豊穣を祈る」「家族円満を願う」といった目的が込められています。
料理や食材の形・色には意味があります。それを知ることは、単に「食べる」だけでなく、食べ物を尊び、自分や大切な人の幸せを「願い」「祈る」の気持ちを持つきっかけにもなります。
昔から行事食は、人々の暮らしを支える知恵そのものでした。

日本の年中行事の中でも特に大切にされてきたのが「五節句」です。
1月7日の人日(七草)、3月3日の上巳(桃の節句)、5月5日の端午、7月7日の七夕、9月9日の重陽。
いずれも薬草や旬の食材をいただき、無病息災や長寿を願いました。
七草粥やちらし寿司、柏餅やそうめん、菊花酒など、今も食卓に残る行事食として親しまれています。

春分・秋分の日を中日として前後7日間を「彼岸」と呼びます。
この時期には先祖を供養し、自然の恵みに感謝する習わしがあり、お供えするのが「おはぎ(春はぼた餅)」です。

小豆の赤い色は邪気を払うとされ、家族の健康や平和を願う食べ物でした。
また精進料理をいただく習慣もあり、体を整える知恵としても大切にされてきました。

「土用」とは、立春・立夏・立秋・立冬の直前の約18日間を指す言葉で、季節の変わり目にあたります。
一方「丑の日」とは十二支を日に割り当てる考え方で、その土用期間にあたる「丑の日」を「土用の丑の日」と呼びます。
特に夏の土用は体調を崩しやすい時期とされ、昔から体を労わるための食習慣が生まれました。

同じ行事でも、地域によって食べ物は少しずつ異なります。
例えば正月のお雑煮は、関東ではすまし仕立てに角餅、関西では白みそ仕立てに丸餅。
十五夜のお供えも、里芋や栗、枝豆など、その土地の農作物を供える風習があります。
行事食を通じて、日本各地の暮らしや食文化の豊かさに触れることができます。

行事食には必ず「旬」があります。
春は若菜や桃、夏はそうめんや瓜、秋は里芋や栗、冬は小豆やかぼちゃ…。
栄養的にも理にかなった旬の食材をいただくことは、行事食を楽しむうえで欠かせません。
旬を味わうことが、行事食をより豊かにしてくれますね。

七草を家族で刻む、お団子を子どもと丸める、おせちを盛りつける…。
行事食は「食べる」だけでなく、「作る」「囲む」ことの楽しみも大きいものです。

こうしたひとときが、行事をより思い出深いものにして、食卓を囲む時間が家族の絆を深めてくれます。

行事食は、必ずしも昔の形にこだわる必要はありません。
恵方巻を手巻き寿司にしたり、十五夜のお供えを果物や和菓子で代用したり…。
暮らしに合わせて工夫することで、無理なく続けることができます。
「気軽に取り入れること」こそ、伝統を未来につなぐ第一歩です。


おわりに|行事食で一年をめぐる

行事食は、旬の食材をいただきながら、自然と共に生きる知恵を伝えてくれるもの。
一年を通して振り返ってみると、四季の移ろいがそのまま食卓に映し出されていることに気づきます。

ぜひ、ご家庭でもひとつずつ取り入れて、“四季を味わう暮らし”を楽しんでください。