~和ごころ素材図鑑~
このシリーズでは、季節ごとの食材をていねいに紹介しています。
野菜や魚、乾物やお肉など、和食に寄り添う素材たちの魅力を知って、台所でのひとときをもっと楽しく。
夏になるとスーパーの青果売り場で必ず見かける野菜のひとつが「なす」ですね。
つやつやとした紫色の皮は見るからに涼しげで、焼きなすにすれば香ばしく、とろりとした食感は思わずご飯やお酒が進んでしまいますね♪
でも一口に「なす」と言っても、細長いもの、丸いもの、大ぶりのもの、小ぶりのもの……。種類や産地も実にさまざま。料理によっても向き不向きがあります。
ここでは、なすの基本情報から種類ごとの特徴、産地やブランドなすの紹介まで、じっくりとご案内します。
なすの基礎知識

歴史と原産
なすの原産地はインド東部。紀元前から栽培され、中国を経て奈良時代には日本へ渡ってきたといわれています。『古事記』や『万葉集』にも登場し、日本人にとって長い歴史を持つ野菜です。
栄養と効能
- 水分が豊富:体の熱を冷ます作用があり、夏にぴったり。
- ポリフェノール「ナスニン」:紫色の皮に含まれ、抗酸化作用が期待される。
- カリウム:余分な塩分を排出し、むくみや高血圧の予防に役立つ。
日本各地のなす産地とブランド野菜
なすは日本全国で栽培されていますが、地域ごとに特徴的な「ブランドなす」もたくさん存在します。
まずはなすの生産量から…
- 高知県:生産量日本一。温暖な気候をいかし、一年を通じて出荷される。
- 群馬県:関東有数の産地。夏場は関東一円の食卓を支える存在。
- 熊本県:九州を代表する大産地。長なす・米なすなど多様な品種が流通。
ご当地ブランドなすの例
- 泉州水なす(大阪):皮が薄くて生でも食べられるほど。浅漬けが有名。
- 加茂なす(京都):大ぶりでまん丸。田楽や揚げ物にするととろける食感。
- 真黒なす(神奈川):伝統野菜。濃い紫色で果肉がやわらかく煮物に最適。
- 小布施丸なす(長野):果肉がしまっており、味噌田楽や煮浸しにぴったり。
- 仙台長なす(宮城):細長くて皮がやわらかい。漬物に最適。
- 米なす(全国):アメリカ由来の品種。肉厚で洋風料理にもよく合う。
ブランドなすは「地域の気候や土壌」と結びついて育まれており、それぞれの土地の食文化と深く結びついています。
なすの種類と旬・特徴
なすは6月〜9月が一般的な旬ですが、種類ごとに美味しい時期や使い方に違いがあります。
ここでは代表的ななすをピックアップして、「旬」と「特徴」「おすすめ料理」をまとめてご紹介します。スーパーでの買い物や献立の参考にしてみてください。
長なす

- 旬:7月〜8月(東北や北関東で多く出回る)
- 特徴:30cm近い長さになることもある細長いなす。皮がやわらかく火の通りが早いため、焼きなすに最適。炒め物にしても食感が軽く、さっぱり仕上がります。
- おすすめ料理:焼きなす、炒め物、煮びたし
👉 焼きなすにすると香ばしく、とろりとした甘みが引き立ちます。
丸なす(賀茂なす・小布施丸なすなど)

- 旬:7月〜8月
- 特徴:ずっしりと丸い形で、京都の「賀茂なす」や長野の「小布施丸なす」などが代表例。肉厚で食べ応えがあり、油や味噌との相性が抜群です。
- おすすめ料理:田楽、揚げ浸し、煮物
👉 油や味噌との相性抜群で、濃い味付けでも負けない存在感。
米なす

- 旬:国産は夏〜初秋が美味(通年流通あり)
- 特徴:アメリカから伝わった大型の品種。果肉がしまっていて煮崩れしにくいのが特徴。和洋中どの料理にも合い、特にグラタンや揚げ物に向きます。
- おすすめ料理:グラタン、ラザニア、はさみ揚げ、田楽
👉 洋風料理やボリューム感のある主菜にぴったり。
小なす

- 旬:7月〜9月
- 特徴:小さなサイズのなすの総称。泉州水なすや仙台長なすなど、漬物用としてのブランドが多いです。皮がやわらかく、丸ごと漬けて楽しむことができます。
- おすすめ料理:辛子漬け、ぬか漬け、浅漬け
👉 丸ごと漬けると、皮のやわらかさと食感が楽しめます。
水なす(泉州水なすなど)

- 旬:4月〜6月の早出しもあるが、最盛期は7月〜8月
- 特徴:泉州地方に代表される水分の多いなす。皮が薄く、ジューシーで生食も可能。夏の漬物文化に欠かせない存在です。
- おすすめ料理:浅漬け、サラダ
👉 真夏にぴったりの清涼感を味わえるなす。
白なす

- 旬:7月〜9月
- 特徴:近年スーパーでも見かけるようになった白い皮のなす。加熱するととろけるような食感で、ソテーや揚げ物に向きます。
- おすすめ料理:ソテー、揚げ物、洋風スープ、田楽
👉 見た目の珍しさもあり、食卓のアクセントに。
\「白なす」についてもっと詳しく見る/
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在来種・伝統品種
- 旬:地域により異なる(概ね夏〜初秋)
- 特徴:各地に根付いた伝統品種。真黒なす(神奈川)、小布施丸なす(長野)、大長なす(鹿児島)など個性豊か。
- おすすめ料理:地元の郷土料理に合わせるのが一番。
👉 在来種はその土地ならではの味わいを楽しめる、まさに“ご当地なす”。
秋なすの魅力

なすといえば「夏野菜」というイメージが強いですが、実は秋に収穫される「秋なす」もとても美味しいといわれています。
夏の強い日差しをたっぷり浴びて育ったなすが、涼しくなってきた秋に実ることで、実がしまり、皮もやわらかくなります。そのため「秋なすは嫁に食わすな」という有名なことわざが生まれたほど。
ここでは秋茄子について触れておきますね。
秋なすが美味しい理由
- 昼夜の寒暖差:秋口は気温差が大きくなるため、実が引き締まりやすい。
- 皮がやわらかい:夏のなすに比べて皮が薄くなり、口当たりが良い。
- 甘みが増す:水分が程よく減り、濃い味わいになる。
ことわざ「秋なすは嫁に食わすな」の由来
- 「美味しいから嫁に食べさせるのは惜しい」という意味。
- 「体を冷やすから大事な嫁には食べさせるな」という意味。
どちらの説もあり、昔の人々がなすの美味しさや性質をよく知っていたことがうかがえます。
秋なすのおすすめ料理
- 焼きなす:皮がやわらかいので、秋なすの美味しさをストレートに味わえる。
- 煮浸し:実がしっかりしていて、だしの旨みをよく含む。
- 味噌炒め:甘みが増した秋なすに、味噌のコクがよく合う。
秋なすは、夏の力強さとは違う「上品な味わい」が特徴。まさに季節の移ろいを感じさせる食材です。
調理法と相性
なすは水分が多く、熱を加えると一気にしんなりとやわらかくなる野菜です。
また「油を吸う野菜」としても知られ、油と組み合わせることでコクと旨みがぐっと増します。ここでは代表的な調理法と、それぞれに合うなすの種類を詳しく見ていきましょう。
焼く
長なすや大長なすは、皮が薄く火が通りやすいため「焼きなす」にぴったり。
直火やグリルで皮を真っ黒に焼くと、中の果肉がとろりと甘くなります。焼きなすはしょうが醤油でさっぱりいただくのが定番ですが、白だしやポン酢で仕上げると夏らしい爽やかさが楽しめます。
👉 ポイント:皮をむく際は熱いうちに剥くときれいに仕上がります。
煮る
丸なすや小布施丸なすのように、果肉が詰まっているタイプは「煮物」に適しています。味噌や出汁を含んでとろけるような食感になり、皮もしっかりしているので煮崩れしにくいのが特長です。
甘辛い味噌で煮る「なすの味噌煮」や、だしで含め煮にする「煮浸し」は家庭料理の定番。
👉 ポイント:煮る前に油で軽く炒めるとコクが出て、味のしみ込みもよくなります。
揚げる

米なすや賀茂なすのように大きくて肉厚な品種は「揚げ物」に最適です。
素揚げにしてから出汁に浸す「揚げ浸し」は、冷やしても美味しい夏のお惣菜。厚切りにして田楽やグラタンにすれば、食べごたえのあるメイン料理にもなります。
👉 ポイント:油を吸いすぎないようにするには、高温でさっと揚げるか、あらかじめ水にさらしてから揚げるとよいです。
漬ける
小なすや水なすは漬物に向く品種。皮が薄く、果肉がやわらかいため、生のままでも塩やからし床にしっかり味がなじみます。大阪の泉州水なす漬け、仙台長なすの漬物などは地域の名物としても有名です。
👉 ポイント:なすはアクが強いので、漬ける前に塩で軽くもんで余分な水分を出すと味がよくなじみます。
その他の楽しみ方
- 炒める:なすと豚肉の味噌炒めは王道の組み合わせ。油をまとったなすが旨みを吸って、ご飯が止まらない味に。
- 蒸す:皮ごと蒸すと、果肉の甘みが引き立ちます。冷やして生姜醤油でいただくと、夏にぴったり。
- 和える:揚げたり焼いたりしたなすを胡麻だれや梅肉で和えると、副菜にもなります。
なすと調味料の相性
なすはクセが少なく、どんな味つけにもなじむ万能野菜です。そのぶん、調味料との組み合わせ次第で印象が大きく変わります。
こってり濃厚なおかずから、さっぱりとした副菜まで、相性のよい調味料を知っておくとレパートリーがぐっと広がりますよ。
- 味噌:コクを引き立てる黄金の組み合わせ
例:なすの味噌炒め、田楽 - しょうゆ:シンプルに素材の甘みを際立たせる
例:焼きなす、煮浸し - ごま油:香ばしさとコクをプラス
例:中華風炒め、和え物 - 辛子・生姜:さっぱりとした辛味で味を引き締める
例:なすの漬物、薬味添え - 砂糖:甘辛い味つけでご飯がすすむ味に
例:揚げびたしの甘辛だれ、煮物 - 酢:さっぱりと仕上げて夏にぴったり
例:なすの南蛮漬け、甘酢あんかけ
💡 「甘み」「酸味」「辛味」「香ばしさ」と、調味料ごとに味の方向性が変わるのがなす料理の楽しさです。
おすすめレシピリンク集
おわりに|種類と使い分けで広がるなすの魅力
同じ「なす」でも、種類によって特徴も食感もさまざま。
日々の料理に合わせて使い分けることで、ぐっと食卓が豊かになります。
ぜひ産地やブランドにも注目しながら、旬のなすを楽しんでみてくださいね。
【参考文献】