~和ごころ素材図鑑~
季節の移ろいとともに、旬を迎える日本の食材たち。
そのひとつひとつには、自然の恵みと、昔から受け継がれてきた知恵が息づいています。
「和ごころ素材図鑑」では、そんな和の素材を、旬・産地・調理法・行事との関わりなど、暮らしに寄り添う目線でご紹介します。
八百屋や直売所で、赤紫色の長い茎を見かけて「これは何だろう?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
これは「芋茎」と書いて「ずいき」と読み、古くから日本の食卓で親しまれてきた伝統的な和の食材です。
本記事では、ずいきの正体や読み方はもちろん、種類(赤・白・青)、失敗しない簡単なアク抜きの方法から、定番の美味しい食べ方まで、和食の視点からわかりやすく解説します。
芋茎(ずいき)とは?読み方と知られざる正体
「芋茎」は「ずいき」と読みます。古くから日本の食卓で親しまれてきた、伝統的な和の食材(野菜)です。
ずいきの正体は「里芋の首(茎)」
ずいきの正体は、私たちが普段食べている「里芋(サトイモ)」や「蓮芋(ハスイモ)」などの葉柄(ようへい)と呼ばれる“茎”の部分です。
通常、里芋は土の中にできる「お芋」を食べますが、ずいきは地上に伸びている茎を食用として収穫したものです。「お芋の茎」だから、漢字で「芋茎」と書くんですね。シャキシャキとした独特の歯触りと、味が染み込みやすいスポンジ状の構造が特徴です。
古くから「お産後の肥立ちを良くする」と言われる漢方のような食材
和食の歴史において、ずいきは単なる美味しいお野菜というだけでなく、体に嬉しい「民間薬」のような役割も果たしてきました。
特に古くから「お産後の肥立ち(ひだち)を良くする」と言われており、出産後の女性の体を労る食材として大切にされてきました。
これは、ずいきに「血をきれいにする作用(不純な血を下ろす効果)」や、鉄分・カルシウム・食物繊維などの栄養素が豊富に含まれているためです。
現代風にいえば、女性に嬉しい「食べるデトックス食材」。一見、扱いが難しそうに見えますが、その正体は日本の知恵が詰まった体に優しい伝統野菜なんです。
芋茎(ずいき)の種類(赤ずいき・白ずいき・青ずいきの違い)
ひとことに「ずいき」と言っても、実は大きく分けて3つの種類(カラー)があります。それぞれ見た目だけでなく、味わいや栽培方法、伝統的な食べ方も異なります。
お店で見かけたものがどの種類なのか、ぜひチェックしてみてください。
① 赤芋茎(あかずいき)|最もポピュラーな定番
一般的に「ずいき」として市場に多く出回っているのが、この赤ずいきです。茎が鮮やかな赤紫色をしているのが特徴で、主に「八つ頭(やつがしら)」や「赤芽芋(あかめいも)」といった里芋の茎が使われます。
- 旬の時期: 👑 6月〜9月(夏が最盛期)
- 主な食べ方: お酢に反応するとさらに鮮やかな赤色に発色するため、「酢の物」にするのが定番です。その他、乾燥させて「干しずいき」にするのもこの赤ずいきが主流です。
② 白芋茎(しろずいき)|料亭御用達の高級食材
茎が白く、関西の高級料亭などでよく使われるのが白ずいきです。別名「泥ずいき」とも呼ばれます。これは、栽培中に土を高く盛り上げて光を遮り、茎を白く育てるという非常に手間暇がかかる方法で作られているためです。
- 旬の時期: 👑 初夏〜夏
- 主な食べ方: アクが少なく、非常に上品で繊細な味わいです。「吉野煮(葛あんかけ)」や「お浸し」など、出汁を含ませて色美しく仕上げる料理に向いています。
③ 青芋茎(あおずいき)|シャキシャキ感が魅力のハスイモ
全体が美しい緑色をしているのが青ずいきです。これは里芋ではなく、主に「蓮芋(ハスイモ)」という、茎を食べる専用の品種が使われます。高知県の伝統野菜としても有名です。
- 旬の時期: 👑 6月〜10月
- 主な食べ方: 他のずいきに比べてアクが圧倒的に少なく、薄皮を剥けば「生のままサラダや刺身のツマ」としても食べられます。シャキシャキとした抜群の歯触りが魅力です。
【番外編】干しずいき(芋がら)とは?

生のずいき(主に赤ずいき)の皮を剥き、カラカラに天日干ししたものを「干しずいき」、または「芋がら(いもがら)」と呼びます。
戦国時代には陣中食(保存食)として重宝されたほど歴史が古く、現代でも常備できる乾物として人気です。
水やぬるま湯で戻してから、油炒めや煮物、お味噌汁の具にすると、生のずいきとはまた違った「コリコリ、ジュワッ」とした独特の食感と、凝縮された旨みが楽しめます。

ずいきは地方ごとに出荷時期がずれ、初夏から初秋までリレーのように旬がつながるのも特徴です。
みずみずしい生ずいきは煮物や酢の物に、秋の深まりとともに干しずいき(芋がら)へと姿を変え、季節の移ろいを感じさせてくれますね。
芋茎の産地と郷土料理

ずいきは全国で広く栽培されていますが、地域ごとに品種や色合い、食文化が異なるのが魅力です。
ここでは北から南へ、代表的な産地の特徴をご紹介します。
新潟県

新潟では、里芋の一種「八つ頭」から採れる赤ずいきが中心。
信濃川流域の肥沃な土壌と朝晩の寒暖差が、色づきのよい茎を育てます。
夏の出荷期を終えると、農家では干して「芋がら」として保存する習慣があり、冬の煮物に欠かせない存在です。
雪国ならではの保存の知恵が、今も受け継がれています。
富山県
富山県では、赤ずいきを酢で和えた「酢ずき」が郷土料理として親しまれています。
下ゆでしたずいきを酢と砂糖で軽く味つけするだけの素朴な料理で、赤紫色が鮮やかに発色します。
暑い時季の食卓に涼を添える一品で、お盆や法要の料理にも登場します。
石川県(金沢地域)
加賀野菜のひとつ「加賀赤ずいき」が有名。
八つ頭の仲間から採れる赤紫色の茎で、やわらかく風味豊か。
金沢では夏から初秋にかけて出荷され、京料理や精進料理にも多く用いられます。
見た目の美しさと繊細な味わいが、加賀の食文化を象徴しています。
福井県(奥越地域)

福井県奥越地方では、里芋の茎(赤ずいき)を使った精進料理「すこ」が伝統として残ります。
8〜9月に収穫された赤ずいきを干して保存し、法事や報恩講などの行事で酢漬けとして供されます。
酢に漬けると赤ずいきの色が鮮やかに発色し、古くから「血の巡りをよくする」といった言い伝えもあります。
奥越の冷涼な気候と水田文化が育んだ、北陸ならではの味わいです。
奈良県
伝統野菜の「軟白ずいき(白ずいき)」が栽培され、日光を遮って育てるため色白で繊細な食感に。
奈良盆地の豊かな水と湿潤な気候が、やわらかな茎を育てます。
お盆や法要の料理として、煮物や酢の物に登場することも多く、京・大和の精進文化と深く結びついた食材です。
京都府
京都では、夏から秋にかけて出回る白ずいきを使った煮物「芋茎のたいたん」が定番。
薄味のだしでふっくらと炊き、油揚げを合わせた上品な味わいです。
京料理らしく、色・香り・歯ざわりを大切にした穏やかな煮物で、精進料理にも欠かせません。
大阪府
大阪では、赤ずいきを油揚げとともに炊いた「紅ずいきと油揚げのたいたん」が家庭料理として親しまれています。
しょうゆ・みりん・だしでじっくり煮含めると、ずいきの色がやわらぎ、だしのうま味をたっぷり含んだ一皿に。
夏の終わりを感じさせる定番のおかずです。
徳島県

徳島県では、ずいきを酢で和えた「ずきがし」が伝統的な家庭料理です。
軽くゆでたずいきを、酢・砂糖・醤油・柚子酢(またはすだち酢)で和え、しゃきしゃきとした歯ごたえと爽やかな酸味を楽しみます。
お盆や夏場の常備菜としても親しまれ、柑橘の香りが広がるさっぱりとした味わい。
三重県
関西から東海にかけては、紅ずいきや芸濃ずいきなど、各地で在来種が受け継がれています。
特に三重県津市周辺では「芸濃ずいき」として知られ、家庭料理の定番。
炒め煮や炊き合わせなど、日々の食卓で活躍する親しみのある食材です。
九州・南西地域
温暖な気候を活かして「青ずいき(はす芋)」を栽培。
沖縄や高知などでは「リュウキュウ」と呼ばれ、葉柄専用の品種として独自の食文化を形成しています。
緑がかった茎はアクが少なく、炒め物や吸い物に向くほか、夏の清涼感を楽しむ料理としても親しまれています。
食感と味わい|しゃきしゃき、でもしっとり
ずいきの魅力は、なんといっても独特の食感。
表面はつるんとして軽やか、噛むとシャキッと歯ごたえがあり、すぐに「じゅわっ」とだしがしみ出します。
見た目は地味でも、煮物や酢の物にするとその存在感は抜群。
どんな味付けにも寄り添ってくれる、まさに名脇役の野菜です。
【動画なしでもわかる】ずいきの簡単なアク抜き方法
赤ずいきはアクが強く、皮をむくときに手がかゆくなることもあるので、ゴム手袋を使うのが安心です。
下処理の手順
赤ずいきは皮が硬く、アクも強めです。
包丁の先で端を少し切り、皮を引くようにしてむきます。
赤紫色の薄皮をすべて取り除くと、なめらかな食感になります。

むいたずいきは、3〜4cmほどの長さに切ります。
煮物や和え物など、用途に合わせてやや長め・短めに調整してもOKです。
切ったずいきをたっぷりの水に30分ほどさらします。
この工程でアクが抜け、独特のえぐみや苦みが和らぎます。
水が濁ってきたら、途中で一度替えるとより効果的です。

鍋に湯を沸かし、少量の酢(湯1ℓに対して小さじ1程度)を加えて2〜3分ほどさっとゆでます。
アクと変色を防ぎ、きれいな色に仕上がります。
ゆで上がったら冷水に取り、水気を切って調理に使います。


👆ここまで済ませれば、煮物や和え物などにすぐ使えます。
ずいきを美味しく食べる!おすすめ定番レシピ
ずいきは、煮る・和える・炒めるのどれも得意。
味が染みやすいので、だしを活かした優しい味つけがおすすめです。
ここでは定番の芋茎料理を紹介します。
ずいきの煮物
油揚げやにんじんと一緒に、だしでじっくり煮含める定番の一品。芋茎と油揚げを一緒に炊く料理は、大阪や奈良などで郷土料理として親しまれています。
ずいきの酢味噌和え
酢のさっぱり感と味噌のコクが好相性。食欲の落ちやすい季節にもおすすめです。
ずいきの甘辛炒め
しょうゆとみりんで甘辛く炒める、ごはんがすすむおかず。お弁当にも◎。
芋がらの煮付け
乾物の「芋がら」を戻して作る常備菜。素朴なうま味があり、保存性も抜群。

ずいきは、冷めても美味しいのが魅力。
前日に作っておくと、味がよく染みてよりおいしくいただけます。
保存のコツ
生のずいき
新聞紙に包んでポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存します。
乾燥しやすいので、湿り気を保つように包むのがポイント。
できれば2〜3日以内に使い切ると、しゃきっとした歯ごたえが楽しめます。
長く置くと切り口が黒ずみ、アクが強くなるため早めの調理がおすすめです。
下ゆでしたずいき
下ゆでして冷ましたずいきは、水気をしっかり拭き取り、小分けにして冷凍保存します。
使いやすい分量ごとにラップで包み、フリーザーバッグに入れておくと便利。
自然解凍または電子レンジで軽く温めれば、そのまま煮物や和え物に使えます。
冷凍で約3週間を目安に使い切りましょう。
芋がら(干しずいき)
しっかり乾燥させた芋がらは、湿気の少ない場所で密閉袋や保存瓶に入れて常温保存します。
直射日光を避け、風通しのよい棚や戸棚に置くと長持ちします。
使うときは、ぬるま湯で1時間ほど戻し、柔らかくなったら軽く水洗いしてから煮物などに。
乾物ならではのうま味が、じんわりと広がります。
おわりに|暮らしに息づく「季節の知恵」
ずいきは、一見地味な野菜ですよね^^;
ですが、葉も、茎も、お芋も——すべての部分を無駄にせず、大切に食べ繋いできた先人の知恵がギュッと詰まった、日本の豊かな食文化の象徴です。
どうやって食べるんだろう…と、これまでは素通りしていたかもしれない芋茎ですが、ほんの少しだけ手をかけて、丁寧にひいた出汁をたっぷりと含ませて食べてみてください。
市販の便利なお惣菜では味わえない、優しくてどこかホッとする季節の味わいが口いっぱいに広がります。
初夏から秋にかけて、もし八百屋や直売所でずいきを見かけたら、ぜひ一度手にとってみてくださいね♪
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