季節のめぐりに感謝を込めて、年の瀬を迎える台所仕事

12月は、一年の締めくくりにあたる月。冬至を境に日が少しずつ長くなり、古くから人々は「太陽がよみがえる」として無病息災を祈る行事を重ねてきました。

年の瀬には、そばを食べて厄を払う「年越しそば」、新しい年を迎えるための「おせちの仕込み」など、食を通して季節と向き合う時間が続きます。

冬至から大晦日までの行事食をたどりながら、一年を感謝で締めくくる師走の台所の、参考にしていただけたら嬉しいです♪


12月の行事食カレンダー(2025年)

日付行事名関連する食べもの・風習
12月8日事八日(ことようか)鬼子母神の供養・一年の厄払い
12月22日冬至かぼちゃ ・ゆず湯・小豆かぼちゃ
12月24〜25日クリスマス鶏料理・ケーキなど家庭のごちそう
12月28日頃餅つきお正月準備の始まり
12月31日大晦日年越しそば・除夜の鐘

行事ごとに追われながらも、台所に立つ時間だけは丁寧にしたいな~と感じる今日この頃です。


各行事の意味と食文化

~一年の厄を祓い、道具をねぎらう日~

もともと「事八日」は、年に二度(2月8日と12月8日) 行われる行事。
2月8日は“事始め”、12月8日は“事納め”とされ、一年の始まりと終わりを清める節目の日として全国に伝わっています。

「事」とは神仏への祈りや日々の営みを指し、この日には神様に一年の感謝を伝え、翌年の無事を祈る行事が行われます。
地方によっては「鬼子母神の供養」「針供養」を行う風習もあり、使い終えた針を豆腐やこんにゃくに刺して供え、道具への感謝とともに心身を清めます。

この日に食べる行事食が、「お事汁(おことじる)」
地域によっては「六質汁(むしつじる/むしちじる)」とも呼ばれ、六種類の具材(大根・にんじん・ごぼう・里芋・こんにゃく・豆腐など)を入れて作る味噌仕立ての具だくさんの汁物です。

一年間お世話になった神仏や自然の恵みに感謝し、体の内側から穢れを祓う意味を込めて食べられてきました。

こんにゃくは古くから「身の砂おろし」と呼ばれ、「身の垢を落とす=厄を祓う」食べものとされてきた地域もあります。
お事汁にこんにゃくを入れるのは、この“厄落とし”の願いのあらわれでもあります。

ミニコラム|南信州の「コト八日」

関東周辺や東北地方では、2月・12月の両日を「コト八日」と呼び、一つ目小僧などの妖怪が訪れる日とされる地域があります。人々はこれを避けるため、目の多いザルやカゴを門口に掲げて魔除けとし、静かに過ごす日とした地域もあります。この日は針仕事を休み、道具を供養する「針供養」を行う風習も広く残っています。

長野県南部地方のさらに中部以南では「百万遍念仏」や「コトの神送り」といって、村人たちが数珠を回したり行列を組んで、疫病をもたらす神=「コトの神」を村の外へ送り出す行事も伝わっています。

古くはこの「コトの神送り」を2月と12月の両方で行っていた地域が多く、2月=一年の始まりの祓い、12月=一年の締めくくりの祓いという意味を持っていました。
現代では、ほとんどの地域で2月8日だけが残っていますが、南信州伊那谷では今もその名残を伝える行事が続いています。

🫕行事食|お事汁(六質汁)の作り方(一例)

お事汁は、冬野菜を中心とした精進の味噌汁。
大根、にんじん、ごぼう、里芋、こんにゃく、豆腐を合わせて“六つの実”とし、
一年の厄を祓い、来年の健康を願う「福招きの汁もの」です。

お事汁のつくり方の一例

  1. 大根・にんじん・ごぼう・里芋・こんにゃくを食べやすい大きさに切り、下ゆでする。
  2. 鍋にだしを入れて具材を煮る。
  3. 柔らかくなったら豆腐を加え、味噌で味をととのえる。
  4. 器に盛り、青ねぎを添える。

各地でいろいろな言い伝えがあるようですが、お事汁で、一年の厄を祓って新しい年を迎える――。
体も心も温まる、味噌の効いたほっこり汁物がこの季節には似合いますね。

太陽の再生を祝う日

一年でもっとも昼が短い冬至は、「陰が極まり、陽に転ずる」とされる再生の日。
太陽の力が少しずつ戻ってくることから、古くから無病息災を願う食文化が生まれました。

冬至に食べるとよいとされるのが、「ん」がつく食材
なんきん(かぼちゃ)、れんこん、にんじんなど“運盛り”と呼ばれ、語呂合わせ“運を呼び込む”と信じられています。

また、ゆず湯に入る習わしは「融通がきくように」という言葉遊びから。
香りの強い柚子には邪気を払う力があるとされ、一年の疲れを癒す冬至の日の風物詩です。

🫕献立例|冬至の一汁三菜

  • 主菜:ぶりの照り焼き
  • 副菜:かぼちゃのいとこ煮
  • 副菜:春菊とえのきの白和え
  • 汁物:ゆずの香りの澄まし汁
  • ご飯:五穀ごはん

ミニコラム:いとこ煮の名前の由来

いとこ煮という名前には、いくつかの説があります。
もっともよく知られるのは、材料を「おいおい(追々)」入れて煮ることから、「追々=甥々(おいおい)」とかけて甥同士はいとこだから…という説、また、銘々(めいめい)に食べることから、姪(めい)同士はいとこだから…という説もあります。

あくまでも説なので真実はわかりませんが、どちらの説にも、家族が集い、温かな鍋を囲む日本の冬の食卓風景が感じられて、少しほっこりします。

→ 冬至の運盛り野菜「かぼちゃ」について詳しく見る。

お世話になった方へ、感謝の気持ちを食のかたちで届ける「お歳暮」。
本来は、年の終わりに神様やご先祖に供えた御供物を分け合う風習が起源です。
冬の味覚を贈り合う文化は、「人とのつながりを結び直す」行為でもあります。

贈る側も受け取る側も、そこにあるのは“ありがとう”の心。
現代ではハムや果物、調味料など多様な形になりましたが、その根っこにあるのは「感謝を伝える」という普遍の想いです。

~歳神様を迎える支度~

28日ごろになると、年神様を迎えるための「餅つき」が行われます。
餅は“ハレの日の食”の代表格。蒸したもち米を搗きながら、一年の無事を感謝し、家族や近所が笑顔で手を合わせる行事です。

「搗(つ)く」には“気を込める”という意味もあり、その音は邪気を払うともいわれます。

丸めた餅は鏡餅に、のした餅は雑煮用に――
新しい年の食卓を支える大切な保存食でもあります。

🫕献立例|餅つきの日の温かい昼餉(ひるげ)

  • 主菜:けんちん汁(根菜と豆腐の滋味豊かな汁)
  • 副菜:白菜の浅漬け
  • 副菜:小松菜のからし和え
  • 主食:つきたての丸餅(あんこ・きなこ・大根おろしで)

もうだいぶ昔の話になりますが、幼少のころは庭先で行う餅つきが家族の一大行事でした。出来上がるつきたてのお餅もさることながら、その前に、かまどで蒸したおこわをつまむのが大好きでした。「そんなに食ったらモチにする分がなくなるに」と言っていた、今は亡き祖母の姿が懐かしく思い出されます…

~和の食卓に溶け込んだ冬の祝日~

本来はキリストの誕生を祝うクリスマス・・・
日本でも昭和期以降は、家族や友人と温かな料理を囲む“団らんの象徴”になりました。

洋食が中心の食卓になるご家庭も多いと思いますが、もしも和食を取り入れるなら、照り焼きや煮込みなど、大皿に盛れる料理がおすすめ。

また、比較的油っぽい料理になりがちですが、その中でも箸休めの副菜に和え物や酢の物があったら嬉しいものです。

柚子ゼリーや小豆プリンといった和の甘味を添えても◎。

ごちそうの主役は、やっぱり家族の笑顔♪
そんなひとときが、何よりの贈りものです。

~厄を断ち、清らかに~

大晦日は、一年を締めくくる大切な日。
古くは「年越しの祓(はらえ)」を行い、心身を清めて新年を迎えました。

年越しそばには、「細く長く」「厄を断ち切る」という願いが込められています。
そばは切れやすいことから、“厄を切り捨てる”象徴でもありました。

🫕献立例|年越しの一汁三菜

  • 主菜:鴨南蛮そば(またはかけそば+薬味添え)
  • 副菜:大根の煮しめ
  • 副菜:だし巻き卵
  • 小鉢:黒豆または紅白なます

お正月準備と祝い肴のはじまり

12月下旬、台所ではおせちの支度が始まります。
黒豆を煮て、昆布を結び、田作りを干す――
それぞれに「まめに暮らす」「よろこぶ」「五穀豊穣」などの願いが込められています。

おせちは、年神様へのお供えであり、新年最初の“食の祈り”。
素材ひとつひとつに意味があることを知ると、台所の手仕事がぐっと楽しくなります。

代表的なおせち料理

  • 黒豆の蜜煮
  • 田作り(ごまめ)
  • 数の子の味付け
  • 昆布巻き
  • 紅白なます
  • 伊達巻き
  • 栗きんとん
    など

すべて手作りするのは大変ですが、できるところから少しずつチャレンジしてみるのもいいものです。

(※お節料理に関する記事は後日投稿予定です…)

ミニコラム:信州飯田の「おせちは大晦日に食べる」風習

長野県飯田市では、おせち料理を大晦日に食べるという珍しい習わしがあります。
年が明けてからではなく、大晦日の夜に家族がそろっておせちを囲むのが、この地域の年越しのかたちです。「お歳取り」といったりします。

由来には諸説ありますが、ひとつは「年が明けるとすぐに初詣や新年の挨拶回りがあり、ゆっくり食事ができないため、大晦日に“前祝い”としておせちを食べた」という説。

また、もともと飯田地方では“除夜食(じょやじき)”の文化が残り、
年越しの夜に家族そろってごちそうをいただくという考えが根づいていたことも関係しているようです。

こうした「大晦日におせちを食べる」風習は、実は飯田市だけでなく、
一部の信州下伊那郡地域や岐阜県中津川市、静岡県遠州地方、山梨県の一部でも見られるようです。

山間地では、年の暮れに家族が早めに集まり、
「年神様を迎える支度を終えてから一息つく」意味でおせちを囲む家庭もあるようです。

驚かれるのですが…大みそかは実家で紅白歌合戦を見ながらお節料理やごちそうを食べ、元旦は東京の主人の実家でごちそうを食べる!我が家の年越しは2度おいしいのです!^^


おわりに|感謝をこめて新しい年へ

師走の食卓には、一年を締めくくる静けさと、次の季節を迎える期待が同居しています。

湯気の立つ汁ものや、丁寧に煮含めた根菜の香り。
台所に流れるその時間こそが、日本の四季をつなぐ豊かさです。

どうぞ、新しい年も健やかに、季節のごはんとともに。
台所のぬくもりが、皆様の一年をやさしく包んでくれますように。

参考文献

  • 農林水産省「食文化ミニ百科:冬至の食文化」
  • 『日本年中行事辞典』(吉川弘文館)
  • 『和食文化事典』(柴田書店)
  • 長野県文化財保護協会「伊那谷におけるコト八日伝承に関する調査報告」

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