~和ごころ素材図鑑~
季節の移ろいとともに、旬を迎える日本の食材たち。
そのひとつひとつには、自然の恵みと、昔から受け継がれてきた知恵が息づいています。
「和ごころ素材図鑑」では、そんな和の素材を、旬・産地・調理法・行事との関わりなど、暮らしに寄り添う目線でご紹介します。

冬になると店先に並ぶ、丸くて芽がぴょこんと伸びた「くわい」。あぁ、今年も年末がきたなぁと感じる瞬間でもあります。

昔から「芽が出る」縁起物としてお正月に欠かせない存在ですが、実は煮ても揚げてもおいしい、冬ならではの食材でもあります。ほくほくとした食感と、ほんのりした苦みは、寒い季節の料理によく合います。

この記事では、くわいの特徴や旬、下処理のコツ、定番の含め煮から日常のおかずまで、やさしくまとめてご紹介します。
「難しそう…」と思われがちな食材ですが、実は扱いやすくて、冬の台所の心強い味方。ぜひ、くわいの魅力をのぞいてみてください♪


「慈姑(くわい)」とは——“芽が出る”縁起物の冬野菜

慈姑(くわい)は、オモダカ科の水生植物の塊茎(かいけい)を食べる冬野菜です。

泥の中で育つ小ぶりな球形の芋のようなもので、ほくほくとした粉質の食感と、ほんのりした苦みが特徴です。

煮物にも揚げ物にも向き、だしをよく含むため、お正月の煮しめにもよく使われてきました。

くわいといえば、あの 天に向かってのびる細い芽が象徴的です。

この姿が「芽が出る=めでたい」「努力が実る」などに結びつき、昔から立身出世・子孫繁栄・商売繁盛を願う縁起物として、おせち料理に欠かせない存在となりました。

さらに、漢字の「慈姑」は、ひとつの親芋から子芋がたくさんできることを“子を慈しむ母”になぞらえたとも言われています。由来を知ると、その素朴な姿がより愛おしく感じられます。

名前の由来と歴史の豆知識(ミニコラム)

くわいの葉は、土を掘る「鍬(くわ)」に形が似ており、もともとは「くわいも」と呼ばれていました。それが短くなって「くわい」に変化したという説が有名です。

田んぼの風景や昔ながらの農業のある暮らしが想像できますね♪


慈姑の旬と産地

くわいの旬は、11月下旬〜1月ごろ
とくに年末〜お正月前後は、おせち料理の需要にあわせてもっとも多く流通する時期です。

市場では、

  • 11月:やや小ぶりなものが多く、素揚げや丸ごと揚げにぴったり
  • 12月:おせち用に、ある程度そろったサイズが店頭に並ぶ

といった傾向があります。

国内の主な産地は、

  • 広島県福山市…生産量日本一。青くわいが中心で、皮の青藍色が美しく「田んぼのサファイア」と呼ばれています。
  • 埼玉県南東部(川越周辺など)…青くわいの一大産地として知られています。
  • 大阪府吹田市周辺…「吹田くわい」という在来の品種が栽培され、「なにわの伝統野菜」にも指定されています。

そのほか、京都や石川などの伝統野菜として受け継がれている地域もあります。

市販されているくわいは、主に次の3タイプです。

① 青くわい

  • 皮が青みがかった色
  • 扁球形(やや平たい丸形)
  • 肉質がやわらかく、ホクホクした食感
  • 国内で流通しているくわいの多くを占める
  • 埼玉・広島などで盛んに栽培されている

京野菜や加賀野菜としての「くわい」も、この青くわいがベースです。

② 白くわい

  • 皮の色が淡く白っぽい
  • 青くわいに比べてややあっさりした味わい
  • 生産量は青くわいほど多くなく、出回りも限定的

市場では「白くわい」と表示されていることもあれば、産地やブランド名で並ぶこともあります。

③ 吹田くわい

  • 大阪府吹田市周辺で栽培される在来種
  • 小粒で「姫くわい」とも呼ばれる
  • 皮は青〜赤紫色
  • 肉質がとてもなめらかで、くわいの中でも食味が良いとされる

素揚げや炊き合わせ、椀だねにすると、ほどよいサイズ感と上品な食感が活きます。

ミニコラム|在来のくわいと地域の食文化

吹田くわいのような在来種は、その土地の水や土、気候に合わせて育ってきた“ローカル野菜”。
おせち料理の一品としてだけでなく、地元では日常の煮物や天ぷらにも使われ、季節の味として大切にされてきました。

数種類を同時に見かけることがないかもしれませんが、機会があれば「どのくわいか」を意識してみると、同じ料理でも風味の違いが分かっておもしろいですよ。


くわいの主成分は、じゃがいもや里芋と同じく炭水化物(でんぷん)です。日本食品標準成分表によると、生のくわい100gあたり炭水化物は約26.6g(うち食物繊維約2.4g)です。

そして、注目したいのは、カリウムが豊富なこと。100gあたり約600mgのカリウムが含まれ、余分なナトリウムの排出を助け、高血圧予防やむくみ対策にもつながるとされています。

そのほか、

  • ほどよい食物繊維
  • リン・マグネシウム・亜鉛などのミネラル類

も含まれており、ホクホクとした食感のわりに脂質は少なく、胃にもやさしい野菜です。

受験シーズンと重なる冬に、「芽が出る」「努力が実る」という願いを込めて食卓にのぼることが多いのも、なんだか納得ですね。


おいしいくわいの選び方

くわい売り場で迷ったときは、次のポイントをチェックしてみてください。

  • ずっしりと重みがあるもの
    → 水分とでんぷんがしっかり詰まっているサイン。
  • 皮にハリとツヤがあるもの
    → しなびているものは水分が抜け、スカスカになりがち。
  • 芽がピンと立っているもの
    → 折れていても食べられますが、見た目の縁起のよさを大切にしたい場合は、できれば元気なものを。
  • 傷やへこみが少ないもの
    → 傷が深いと、そこから傷みやすくなります。

【サイズ】は、

  • 煮しめ・含め煮:やや大ぶり
  • 素揚げ・唐揚げ:小ぶり

というふうに、料理に合わせて選ぶと使いやすくなります。


くわいの保存方法

  • 泥つきのものは、軽く汚れだけ落とし、新聞紙に包んで冷暗所へ。
  • 冷蔵庫の野菜室でもOKですが、乾燥しないように新聞紙や袋でくるんでおきます。

目安としては、状態が良ければ2〜3週間程度
ただし、芽が伸びすぎる前に使い切るのがおすすめです。

  • 変色しやすいので、水をはった保存容器に浸けて冷蔵します。
  • 1日1回水を替えながら、2〜3日程度を目安に使い切ります。

下ゆでして冷凍

  • 皮をむき、アク抜きを兼ねて固めに下ゆでする
  • 水気をよく切り、冷ましてから小分けにして冷凍

煮物や汁物に使う場合、凍ったまま鍋に入れてOKです。

長期保存には向きませんが、お正月前に下ごしらえだけ済ませておくと、とても楽になりますよ。


下処理・下ごしらえの基本

皮のむき方(芽を折らないコツ)

  1. くわいの芽の先を、折らないようにしながら持つ
  2. 反対側の丸いおしり部分を少し平らに切り落とし、安定させる
  3. 包丁またはピーラーで、くるりと回しながら皮をむく

皮をむいたそばから水か薄い酢水に落とすと、変色を防げます。
芽の部分は、見た目を重視するおせち向けなら細く整え、普段使いなら安全に食べられる長さに。

アク抜き

くわいはややアクがあるため、煮物にする場合は軽くアク抜きをすると味がすっきりします。

  • 皮をむいたら、水または薄い酢水に30分〜1時間ほど浸す
  • もしくは、米のとぎ汁で10分ほどゆでてから水で洗う

揚げ物にする場合は、アク抜きせずそのまま使うレシピもあります。ホクホク感や香りを楽しみたいときは、生から揚げるのも◎。

下ゆでと面取り

煮崩れを防ぎ、口当たりよく仕上げたい場合は、

  1. 皮をむいたくわいの、角ばった部分を軽く面取り
  2. 水から入れて、竹串が少し入り始めるくらいまで下ゆで
  3. ざるにあげて湯を切り、だしで本格的に煮ていく

という2段階で火を入れると、煮崩れにくくなります。
おせち用の含め煮など、見た目も大切にしたい料理には特におすすめです。


慈姑の美味しい調理法

だしとの相性が抜群なのが、くわいの良さ。
昆布とかつおで引いただし、または白だしなどでじっくり含めると、中までしっとり味が染みた上品な一品になります。

  • 薄口しょうゆ+みりんで淡い色に
  • 濃口しょうゆでしっかりめの色合いに

と、好みや献立にあわせて調整してみてください。

慈姑の素揚げ

くわいらしいホクホク感を一番シンプルに味わえるのが、素揚げです。

  • 小ぶりのくわいはそのまま
  • 大きいものは半分〜4等分に切って

中まで火が通るまでじっくり揚げ、塩をぱらり。
唐揚げ衣をつけて揚げても美味しく、おつまみにもぴったりです。

グリルやオーブントースターで、オリーブオイルやごま油をからめてこんがり焼くと、また違った香ばしさに。味噌だれや醤油だれを絡めれば、白いご飯にもよく合います。

蒸し器でふっくら蒸してから、バター少々と塩で味つけすると、洋風のじゃがバターのような感覚でも楽しめます。

やわらかくゆでてからすり鉢でつぶし、だしや豆乳・牛乳でのばすと、和風ポタージュのような一品に。白味噌仕立ての椀ものや、しんじょう風の料理にも応用できます。

ミニコラム|“ほろ苦さ”を活かす味付け

くわい独特のほろ苦さは、

  • 甘辛い味つけ
  • 油のコク(揚げ物・バターなど)
  • 味噌のまろやかさ

と組み合わせると、ぐっと食べやすくなります。
逆に、砂糖を控えすぎて塩味だけに寄せると、苦味が立ちすぎることも。
「少し甘みを添える」イメージで味を決めていくと、くわいの良さが引き立ちます。


ここからは、日々の食卓にも、お正月にも使いやすいレシピを5品ご紹介します。

おせち料理にも使える、くわいの基本の煮物です。

慈姑の基本の含め煮(煮しめ用)

材料
くわい:10〜12個/だし汁:400ml/砂糖:大さじ2/みりん:大さじ1/薄口しょうゆ:大さじ1〜1.5/塩:ひとつまみ

作り方(作りやすい分量)

  1. くわいは皮をむき、芽を整えながら面取りをする。酢水に浸けておく。
  2. 鍋にくわいとひたひたの水を入れ、竹串が少し入るくらいまで下ゆでし、ざるにあげる。
  3. 鍋にだし汁・砂糖・みりんを入れて火にかけ、くわいを加える。落としぶたをして弱めの中火で10分ほど煮る。
  4. 薄口しょうゆ・塩を加え、さらに弱火でコトコトと煮含める。火を止めてそのまま冷まし、味を含ませる。

ポイント
おせちに使うときは、煮上がりを崩さないように、最後はごく弱火でじっくり味を含ませるのがコツです。

少ない材料で、くわいの美味しさをストレートに味わえる一品。

慈姑の素揚げ 塩仕立て

材料(2〜3人分)
くわい:8〜10個/揚げ油:適量/塩:少々

作り方

  1. くわいは皮をむき、食べやすい大きさに(小さければ丸ごと)切る。水気をしっかりふき取る。
  2. 160〜170℃の油で、竹串がスッと通るまでじっくり揚げる。
  3. 油を切り、熱いうちに軽く塩をふる。

●ポイント
そのままおつまみにしても、おせちの一品として盛り合わせても◎。
小さな吹田くわいで作ると、ひと口サイズで食べやすく仕上がります。

外はカリッ、中はホクホク。子どもにも人気の味です。

慈姑の唐揚げ しょうゆ風味

材料(2人分)
くわい:8個/しょうゆ:大さじ1/みりん:大さじ1/おろししょうが:小さじ1/2/片栗粉:適量/揚げ油:適量

作り方

  1. くわいは皮をむき、半分〜4等分に切る。さっと水にさらして水気を切る。
  2. ボウルにしょうゆ・みりん・おろししょうがを合わせ、くわいを15〜20分ほど漬け込む。
  3. くわいの水気を軽くふき取り、片栗粉を薄くまぶす。
  4. 170℃の油で、表面がカリッとするまで揚げる。

●ポイント
揚げたてにレモンを絞ってもおいしく、ビールのお供にもおすすめです。

鶏のうま味をまとった、冬のご飯に合うおかずです。

慈姑と鶏肉の煮物

材料(2〜3人分)
くわい:8〜10個/鶏もも肉:150g(一口大)/にんじん:1/3本(乱切り)/絹さや:少々/だし汁:400ml/しょうゆ:大さじ2/みりん:大さじ1.5/砂糖:大さじ1

●作り方

  1. くわいは皮をむいて面取りし、水にさらす。鶏肉は一口大に切る。
  2. 鍋にだし汁・砂糖・みりん・しょうゆを入れて火にかけ、くわい・にんじん・鶏肉を加える。
  3. 落としぶたをして中火で10〜15分、具材に火が通るまで煮る。
  4. 火を止めて少し置き、味を含ませる。仕上げにさっとゆでた絹さやを添える。

お正月明けの「ちょっとだけくわいが余った」タイミングにも使いやすい一品です。

上品なくわいの甘みと、白味噌のまろやかさを楽しむ椀ものです。

慈姑の白味噌仕立て椀

材料(2人分)
くわい:4〜6個/だし汁:400ml/白味噌:大さじ2〜3/塩:ごく少々/絹さや・柚子の皮:少々(飾り用)

作り方

  1. くわいは皮をむき、面取りして下ゆでしておく。
  2. 鍋にだし汁を沸かし、くわいを入れて2〜3分温める。
  3. 火を弱め、白味噌を溶き入れる。沸騰させないように温度を保つ。味をみて塩でととのえる。
  4. 椀にくわいと汁を注ぎ、飾りに絹さやや柚子の皮を添える。

●ポイント
「祝い肴」「煮しめ」と合わせて、新年の椀物レパートリーのひとつに加えるのも素敵ですね。

ミニコラム|おせち料理との関係

くわいは、「芽が出る」姿に立身出世の願いを託し、おせちの煮しめや炊き合わせに欠かせない食材のひとつです。

味付けの仕方や、一の重・二の重のどこに入れるかは地域や家庭によってもさまざまですが、「だしをしっかり含ませた含め煮」もしくは「あっさり炊いた煮しめ」として、入ることが多いです。


おわりに|冬の台所に、ちいさな福をひとつ

泥の中でじっくり育ち、冬のはじまりとともに店先に並びはじめる慈姑。
「芽が出る」「福がふくらむ」といった願いを託されてきた歴史を知ると、あの小さな姿が、ますます愛おしく感じられてきます^^。

お正月だけの特別な野菜として眺めるのも素敵ですが、

  • 素揚げでほくほくと
  • 唐揚げでおつまみに
  • 白味噌仕立ての椀物でほっとひと息

と、冬の日常のごはんにも、ぜひ気軽に取り入れてみてください♪

■参考元(簡易版)

  1. 文部科学省「日本食品標準成分表」
  2. 農林水産省:特産・伝統野菜に関する資料
  3. 広島県福山市「青くわい」紹介ページ/地域伝統野菜の資料

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