~和ごころ素材図鑑~
季節の移ろいとともに、旬を迎える日本の食材たち。
そのひとつひとつには、自然の恵みと、昔から受け継がれてきた知恵が息づいています。
「和ごころ素材図鑑」では、そんな和の素材を、旬・産地・調理法・行事との関わりなど、暮らしに寄り添う目線でご紹介します。

春の祝いの席に、そっと添えられるはまぐり。
ひな祭りのお吸い物で目にすることが多い食材ですが、その姿や意味をきちんと知る機会は意外と少ないかもしれません。

この記事では、はまぐりの旬の時期・産地・栄養・下処理・選び方・行事食との関係まで、台所目線でやさしくまとめています。


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はまぐりの基本

はまぐりの旬は 2月〜4月ごろ(春)。ちょうど桃の節句の時期と重なります。

春先は産卵前で身がふっくらし、うま味も豊かになります。

近年は養殖や流通の発達により通年見かけますが、「もっとも味がよいのは春」と覚えておくとよいでしょう。

主な産地は

  • 桑名(三重県)
  • 鹿島市(佐賀県)
  • 千葉県
  • 茨城県

特に「桑名のはまぐり」は古くから有名で、江戸時代には将軍家にも献上されていました。

現在流通しているものは主に

  • 国産はまぐり
  • 中国産はまぐり
  • チョウセンハマグリ(やや大型)

見た目は似ていますが、国産は殻がやや丸みを帯び、身が締まり、うま味が濃い傾向があります。


はまぐりは、貝類の中でも

  • 鉄分
  • ビタミンB12
  • 亜鉛

を豊富に含みます。

春は環境の変化が多い季節。
貧血予防や疲労回復を助けてくれる栄養素が含まれているのも、行事食に選ばれてきた理由のひとつかもしれませんね。


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貝合わせ文化とは|はまぐりが縁起物になった理由

はまぐりが縁起物とされる背景には、「貝合わせ(かいあわせ)」という日本の遊び文化があります。

貝合わせの起源は、平安時代の宮中遊び「貝覆い(かいおおい)」。たくさんのはまぐりの貝殻を並べ、元の対になる殻を探す遊びです。

はまぐりは、対の貝殻以外とはぴったり合わないので、その性質が、やがて特別な意味を持つようになったようです。

江戸時代になると、貝の内側に絵を描き、かるたのように遊ぶ「貝合わせ」が流行します。

豪華な蒔絵の箱に収められたものは、武家や裕福な商家の嫁入り道具としても用いられたといわれます。

はまぐりの殻は、「一生にひとりの相手と添い遂げる」という夫婦円満の象徴になりました。

桃の節句は、もともと厄払いの行事。女の子の健やかな成長と幸せな結婚を願う日へと変化していきました。

その願いと重なる象徴として、はまぐりはひな祭りの祝い膳に取り入れられます。

現在も、ひな祭りに「はまぐりのお吸い物」を添えるのは、この文化の名残といえるでしょう。

【ひな祭り】の意味や献立例はこちら🔗
やさしく整える桃の節句の祝い膳をご紹介しています。

二枚貝は他にもありますが、はまぐりは殻が厚く、形が整い、対の一致が明確です。

さらに、

  • 古来より食用として親しまれていた
  • 海辺の豊穣を象徴する存在だった
  • 保存が比較的きいた

といった理由もあり、祝いの席に選ばれたと考えられています。

ミニコラム貝殻は、いまもお守りになる?

はまぐりの殻は、現在でも神社の縁起物や装飾品に使われることがあります。

「ぴったり合う」という性質は、時代が変わっても変わらない価値。

食卓にのぼる一椀の中に、そんな物語が隠れていると思うと、少しだけ味わいも深くなりますね。


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おいしく食べるための下処理

  1. 塩水(3%程度)を用意
  2. はまぐりを重ならないように並べる
  3. 暗い場所で2〜3時間おく

※新聞紙をかぶせると静かになります。

殻同士を軽くこすり合わせ、流水で洗います。
強くぶつけると割れるので注意しましょう。


基本の食べ方|春の祝いを味わう一椀から

はまぐりは、強い味付けをしなくても、殻の中に春のうま味をたっぷり蓄えています。

火を通すときの合言葉は、「開いたら、止める」
加熱しすぎないのがポイントです。

ここでは、ひな祭りにも使える基本の二品をご紹介しますね。

旨みをそのまま味わう基本の食べ方です。

蛤は、だしにするだけでなく、殻ごと焼くだけでも立派なごちそう!火が入ることで殻がふわりと開き、内側にたまった澄んだ汁には、海の旨みがぎゅっと凝縮されています。

フライパンで焼き蛤

材料
・殻付き蛤|6〜8個
・酒|大さじ2
・しょうゆ|少々(お好みで)

作り方

  1. 砂抜きした蛤をこすり洗いする
  2. フライパンに重ならないように並べる
  3. 酒をふり、蓋をして中火にかける
  4. 殻が開いたらすぐ火を止める
  5. 仕上げにしょうゆをほんの一滴

※開いたらすぐ止めるのが、ふっくら仕上げるコツです。


◆ グリル・炭火で焼く場合

網や魚焼きグリルでも焼けます。

グリルや炭火で焼く場合

  1. 平らな面を下にして並べる
  2. 強火すぎない位置で加熱
  3. 殻が開いたら食べ頃

炭火は火力が強いため、開いた瞬間がいちばんやわらかく、旨みも逃げません。

春の行事食の代表格。だしは控えめにして、貝のうま味を主役にします。
三つ葉や菜の花を添えると、季節感がぐっと引き立ちます。

レシピ|はまぐりのお吸い物(2人分)

材料
はまぐり|4〜6個
水|400ml
酒|大さじ1
薄口しょうゆ|小さじ1/2
塩|少々
三つ葉または菜の花|適量

作り方

  1. 鍋に水・酒・はまぐりを入れて中火にかける
  2. 口が開いたらアクを取り、しょうゆと塩で味を整える
  3. 器に盛り、さっと湯通しした三つ葉を添える

※開いた後に煮続けないことが、身をふっくら保つコツです。

素材の力をそのまま味わえる一品。蒸し汁は、うま味たっぷりの天然だしになります。少しバターを落とすと、和洋どちらにも寄せられますよ。

レシピ|はまぐりの酒蒸し(2人分)

材料
はまぐり|6〜8個
酒|大さじ2
水|大さじ2
薄口しょうゆ|少々(お好みで)
菜の花または小ねぎ|適量

作り方

  1. フライパンにはまぐり・酒・水を入れる
  2. 蓋をして中火で加熱
  3. 口が開いたら火を止め、しょうゆを数滴たらす
  4. 青みを添えて盛り付ける

※蒸しすぎると身が縮みます。開いたらすぐ火を止めましょう。


はまぐりの蒸し汁は、それだけで上質なだし。具材を欲張らず、香りと透明感を楽しむ一膳に仕立てます。

春らしく三つ葉や木の芽を添えると、祝いの席にもふさわしい佇まいになりますよ。

レシピ|はまぐりの炊き込みごはん(2合分)

材料
米|2合
はまぐり|8〜10個
酒|大さじ2
水|適量(蒸し汁と合わせて2合分)
薄口しょうゆ|小さじ2
塩|ひとつまみ
三つ葉|適量

作り方

  1. 米は洗って30分浸水し、ざるに上げる
  2. 鍋(またはフライパン)にはまぐり・酒を入れ、蓋をして加熱
  3. 口が開いたら火を止め、身を取り出す
  4. 蒸し汁はこしておく
  5. 炊飯器に、米と、蒸し汁・しょうゆ・塩に水を2合分になるように足して炊く
  6. 炊き上がりに身を戻し、さっくり混ぜる
  7. 器に盛り、刻んだ三つ葉を添える

台所メモ

・砂抜きは丁寧に
・加熱は短時間に
・開かない貝は無理にこじ開けない


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保存方法|できるだけ“生きたまま”を保つ

はまぐりは、鮮度が命の食材です。購入後はできるだけ早く使うのが基本ですが、正しく保存すれば1〜2日は保てます。

ポイントは、水に浸けたままにしないことと、密閉しすぎないことです。

  1. 砂抜きが終わったら、軽く殻をこすり洗いする
  2. キッチンペーパーで包む
  3. ふんわりとラップをかける
  4. 冷蔵庫のチルド室へ(0〜3℃が理想)

1〜2日以内

乾燥を防ぎつつ、空気は遮断しすぎない状態が理想です。水に浸したまま冷蔵すると、弱ってしまうので注意。

はまぐりは冷凍も可能ですが、生のままよりも、軽く加熱してからの方が風味を保ちやすいです。

手順

  1. 酒蒸しにする
  2. 身と蒸し汁を分ける
  3. 粗熱を取る
  4. 保存袋に入れ、空気を抜いて冷凍

冷凍保存目安

約2〜3週間

蒸し汁ごと冷凍しておくと、炊き込みごはんや汁物にそのまま使えて便利ですよ。

■ 冷凍する場合の注意

・解凍は冷蔵庫で自然解凍
・再加熱は短時間
・再冷凍はしない

加熱しすぎると身が固くなるため、
「温め直す」程度で止めましょう。

次のような状態は使用を控えます。

・強い生臭さがある
・口が大きく開いたまま閉じない
・触れても反応しない

新鮮なはまぐりは、触れると殻をきゅっと閉じようとします。

はまぐりは、とても繊細な食材です。ぜひ買ったその日か、翌日には食卓へ。


おわりに|春の一椀に、願いを込めて

殻を開いた瞬間に立ちのぼる香りや、澄んだうま味には、特別感がありますね。

それぞれのご家庭で、ひな祭りの一椀に込められるのは、「おいしく食べてね」という気持ちだけでなく、「健やかに育ってほしい」「幸せでありますように」という、やさしい願いですよね。

春のはじまりに、そっと食卓へ。
意味を知って味わうと、いつもの一椀も、少しだけ深く感じられるかもしれません🌸

【ひな祭り】の意味や献立例はこちら🔗
やさしく整える桃の節句の祝い膳をご紹介しています。


【3月の行事食】を一覧で見る🔗
桃の節句や春彼岸など、季節の食文化をまとめています。


参考元

農林水産省「うちの郷土料理/行事食・桃の節句」
・三重県桑名市観光サイト「桑名のはまぐり」
・文化庁「年中行事と節句」

※この記事は、上記資料を参考に、家庭の台所に取り入れやすい形でまとめています。

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