~和ごころ素材図鑑~
このシリーズでは、季節ごとの食材をていねいに紹介しています。
野菜や魚、乾物やお肉など、和食に寄り添う素材たちの魅力を知って、台所でのひとときをもっと楽しく。

暑くて長い夏の終わり、秋の訪れを感じさせてくれるのが栗です。スーパーや直売所に栗が並び出すと、「あぁ秋だなぁ」としみじみ感じますね。

ただ…
さっそく秋の味覚を!と思っても、「皮むきが大変そう…」とためらってしまう方も多いのでは?

栗は下処理のコツを知っておけば、とても手軽に楽しめる食材です。

今回は、栗の種類や旬の魅力、下処理の基本、家庭で気軽に作れるおすすめレシピなど、栗について紹介していきます。

秋の台所がもっと楽しくなりますように!


栗の基礎知識と旬

栗の旬は 9〜10月。秋の訪れを感じさせる食材で、収穫したては実がふっくら甘みが濃く、鬼皮につやと張りがあります。鮮度が良い栗ほど甘さと香りが豊かなので、出回りはじめの時期に手に入れたいものです。

栗にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。

和栗(日本栗)

 私たちが普段食べる栗のほとんどが和栗です。大粒で風味豊か、栗ご飯や甘露煮など家庭料理によく使われます。

 - 利平栗(りへいぐり):和栗の代表格。甘みと香りが強く、栗好きから特に人気が高い品種。
 - 銀寄栗(ぎんよせぐり):江戸時代に生まれた伝統品種で、実が大きくホクホク食感。お菓子や料理に幅広く活躍。

ヨーロッパ栗(マロン)

洋菓子でよく使われ、マロンペーストやモンブランケーキなどに欠かせません。
甘露煮や栗ご飯に使われるのも和栗で、大粒で風味が豊かなのが特徴です。

中国栗

小粒で皮がむきやすいのが特徴。炒り栗(天津甘栗)に多用され、香ばしさが魅力です。

日本の栗は全国で栽培されていますが、特に以下の地域が有名です。

  • 茨城県
     生産量日本一。特に笠間市やかすみがうら市などで多く栽培され、大粒で風味のよい「笠間の栗」が有名です。
  • 熊本県
     西日本を代表する産地。山鹿市の「山鹿和栗」はブランド栗として知られています。
  • 愛媛県
     温暖な気候を活かした栽培が盛ん。「中山栗」は大粒で甘みが強く、ブランド化されています。
  • 岐阜県
     中津川や恵那の栗は、栗きんとんに使われることで有名。栗菓子文化が根付いています。
  • 福島県・宮城県
     東北地方でも栗はよく育ち、特に阿武隈地域などで栽培されています。

💡 栗は国内自給率が高く、輸入に頼らない珍しい果実。和栗ならではの風味を楽しめるのが魅力です。

栗は栄養面でも魅力的です。

  • ビタミンC:でんぷん質に守られているため加熱しても壊れにくい。風邪予防や美肌にも◎
  • 食物繊維:腸内環境を整える。便通改善に効果的。
  • カリウム:余分な塩分を排出し、むくみ防止や血圧安定に役立つ。

季節の変わり目、体調の変化をサポートしてくれる食材です。


栗の下処理の基本

栗料理の第一歩は、やはり皮むきなどの下ごしらえ。
「大変そう…」と思われがちですが、手順を知ってしまえば意外とシンプルです。
ここでは、鬼皮・渋皮の扱い方からあく抜きまで、家庭でできる基本の下処理をご紹介します。

栗の外側の硬い殻(鬼皮)はそのままではむきにくいため、まず柔らかくしておきます。

  • 熱湯に10分ほど浸ける
  • または一晩冷凍してから解凍する

どちらの方法でも、皮がはがれやすくなり作業が楽になります。

栗の底(ザラザラした平らな部分)に切込みを入れ(包丁で切り落としてもOK)、そこから頭に向かって包丁で皮をはがしていきます。
鬼皮が柔らかくなっていれば、力を入れなくてもすっとむけます。

鬼皮をむいた後に残る薄茶色の皮が「渋皮」です。渋皮のむき方は用途によって変わります。

  • 基本のむき方
     栗ご飯や煮物に使う場合は、ペティナイフや包丁の背で渋皮をやさしくこそげ落とします。傷つけすぎないように少しずつ削るのがコツです。
  • きれいに仕上げたい場合
     甘露煮など見た目を整えたい料理では、渋皮をしっかり取り除き、丸みを整えるようにむきます。角を残さず仕上げることで、煮崩れしにくく、美しい見た目に仕上がります。

💡 渋皮を残せば「渋皮煮」に使えます。
ただし、渋皮煮は、渋皮に少しでも傷がついているとホロホロと煮崩れてしまうので、鬼皮をむく際により丁寧にむく必要があります。


むき終えた栗はそのまま調理すると変色しやすいので、必ず水にさらします。

  • 水に30分〜1時間さらす
  • 途中で2〜3回水を替えるとよりきれいに

💡 こうすることで、煮物や栗ご飯にしたときに色よく仕上がります。


保存方法

収穫したての栗は鮮度が命。常温よりも低温保存が向いています。

  • 常温保存
     風通しのよい涼しい場所なら2〜3日が目安。ただし気温が高い時期は避けましょう。
  • 冷蔵保存
     濡れた新聞紙に包み、ポリ袋に入れてチルド室へ。1〜2週間保存可能。
     低温で休眠状態を保つことで甘みが増す、ともいわれています。
  • 冷凍保存(殻つきのまま)
     洗って水気を拭き取り、殻ごと保存袋に入れて冷凍。半年ほど保存できます。
     使うときは半解凍すると鬼皮がむきやすくなります。

皮をむいたあとの栗は傷みやすいため、できるだけ早く使うか、冷凍保存が便利です。

  • 冷蔵保存
     水に浸して保存容器に入れ、冷蔵庫で2〜3日まで。毎日水を替えるのがポイント。
  • 冷凍保存(むき栗)
     下処理して水気を拭いた栗を保存袋に平らにして入れる。1〜2か月保存可能。
     使うときは凍ったまま炊き込みご飯や煮物に使えて便利です。

ミニコラム|栗は保存で甘くなる?

栗は収穫したてよりも、少し時間を置いた方が甘みが増すといわれています。
これは「でんぷんが糖に変わる」ため。低温で保存することで栗が休眠状態に入り、内部の酵素が働いて甘さが引き出されます。

とくに冷蔵庫のチルド室や0〜5℃前後の環境で1〜2週間保存すると、ほくほく感に加えて自然な甘みがアップ。
古くから「栗は寝かせると美味しい」といわれるのは、こうした理由によるものです。


定番レシピ 5選

まずは栗を存分に味わえる定番のレシピをご紹介します。
栗ご飯や甘露煮、渋皮煮など、秋になると一度は作りたくなる基本の料理です。

ほっくりした栗の甘みをそのまま味わえる、秋の定番ごはんです。

レシピ|栗ご飯

材料(2合分)

  • 米 … 2合
  • むき栗 … 約200g
  • 塩 … 小さじ1
  • 酒 … 大さじ1

作り方

  1. 米をとぎ、ザルに上げて30分置く。
  2. 炊飯釜に米と規定の水を入れ、塩・酒を加える。
  3. 下処理した栗をのせて炊飯。
  4. 炊き上がったらさっくり混ぜて盛り付ける。

\土鍋で炊く栗ご飯(3合もち米入)のレシピはこちら/

保存もでき、おせち料理やお菓子にも使える万能な一品です。

レシピ|栗の甘露煮

材料

  • むき栗 … 300g
  • 砂糖 … 200g
  • 水 … 200ml

作り方

  1. 栗を下処理して水にさらす。
  2. 鍋に栗・水・砂糖半量を入れ、弱火で煮る。
  3. アクを取りながら残りの砂糖を2回に分けて加える。
  4. 落とし蓋をして弱火で20分煮含め、冷ます。

ほろ苦さと甘みが調和した、大人の味わいを楽しめる贅沢な煮物です。

レシピ|栗の渋皮煮

材料(栗500g分)

  • 渋皮付き栗 … 500g
  • 水 … 各回で栗がかぶる量
  • 重曹 … 各回(水1リットルにつき)小さじ1(3回分)
  • 砂糖 … 300g

作り方

  1. 鬼皮をむき、渋皮を残す。
  2. 鍋に栗・水・重曹小さじ1を入れ、弱火で10分煮て湯を捨てる。これを新しい水+重曹で3回繰り返す
  3. 渋皮の筋や毛羽立ちをやさしく取り除く。
  4. 重曹を抜くために水で2回煮こぼす。
  5. 水と栗を鍋に入れ、砂糖を数回に分けて加え、弱火で40分煮含める。

💡 コツ:重曹水は毎回新しく作ること。砂糖は分けて入れると栗が崩れにくい。

\写真付きの詳しいレシピはこちら/

栗の素朴な甘さをそのまま活かした、上品な和菓子です。

レシピ|栗きんとん(中津川風)

材料

  • ゆで栗(または蒸し栗) … 300g
  • 砂糖 … 50g

作り方

  1. 栗を熱いうちにスプーンで取り出し、裏ごしする。
  2. 鍋に栗と砂糖を入れ、弱火で練る。
  3. 水分が飛んだら布巾で茶巾に絞り、形を整える。

鶏肉の旨みと栗の甘みが引き立て合う、やさしい和の煮物です。

レシピ|栗と鶏肉の煮物

材料

  • 鶏もも肉 … 200g(一口大に切る)
  • むき栗 … 200g
  • だし汁 … 200ml
  • しょうゆ … 大さじ2
  • みりん … 大さじ1

作り方

  1. 鍋にだし汁・しょうゆ・みりんを入れ煮立てる。
  2. 鶏肉を加えアクを取り、火が通ったら栗を加える。
  3. 落とし蓋をして弱火で15分煮含める。

アレンジレシピ 3選

栗ときのこ、秋の味覚を一度に楽しめる炊き込みご飯です。

レシピ|栗ときのこの炊き込みご飯

材料(2合分)

  • 米 … 2合
  • むき栗 … 150g
  • しめじ・舞茸 … 各50g
  • だし汁 … 360ml
  • しょうゆ … 大さじ2
  • みりん … 大さじ1

作り方

  1. 米をとぎ、30分浸水して水を切る。
  2. 炊飯釜に米・だし汁・しょうゆ・みりんを入れる。
  3. 上に栗とほぐしたきのこをのせて炊飯。
  4. 炊き上がったら軽く混ぜ、茶碗に盛る。

がんもどきに栗を忍ばせ、だしで煮含めるちょっと特別な煮物です。

レシピ|栗入りがんもどきの煮物

材料(2〜3人分)

  • がんもどき(市販でも可) … 4個
  • むき栗 … 80g
  • だし汁 … 300ml
  • 薄口しょうゆ … 大さじ2
  • みりん … 大さじ1

作り方

  1. がんもどきを半分に切り、中に小さめの栗を入れる。
  2. 鍋にだし汁・薄口しょうゆ・みりんを入れ、煮立てる。
  3. がんもどきを加え、落とし蓋をして弱火で15分煮含める。
  4. 器に盛り付け、好みで青菜を添える。

ほんのり甘い栗と白みそのまろやかさが合わさった、秋の茶碗蒸しです。

レシピ|栗と白みその茶碗蒸し

材料(2人分)

  • 卵 … 2個
  • だし汁 … 300ml
  • 白みそ … 小さじ2
  • むき栗 … 4個
  • 薄口しょうゆ … 小さじ1/2
  • みりん … 小さじ1

作り方

  1. 卵を溶き、だし汁・白みそ・しょうゆ・みりんを加えて混ぜ、こす。
  2. 器にむき栗を入れ、卵液を注ぐ。
  3. 蒸気の上がった蒸し器に入れ、弱火で15分ほど蒸す。
  4. 仕上げに柚子皮を添えると香り良く仕上がる。

美味しく作るコツ

栗はほんのひと工夫で、甘みや風味がぐっと引き立ちます。
下処理の段階や調理法にちょっとしたコツを加えることで、仕上がりがぐんと違ってきます。
ここでは家庭で取り入れやすいポイントをまとめました。

水にさらしてあくを抜くことで、変色を防ぎ、料理が色よく仕上がります。

渋皮を残せばほろ苦さがアクセントに、取り除けば栗の甘みが前面に。料理によって使い分けましょう。

大粒はご飯や煮物に、小粒はお菓子や炒め物に向いています。食感や見栄えも変わります。

下処理を済ませたむき栗を冷凍しておけば、思い立ったときにすぐ使えて便利です。


ミニコラム|栗と日本の文化

縄文時代の遺跡からも栗の殻が出土しており、古代から日本人にとって身近な食材でした。
秋の味覚としてだけでなく、お正月のおせち料理の「栗きんとん」には「勝ち栗」に通じる縁起が込められています。
行事や祝いの食卓に欠かせない、まさに日本の暮らしとともにある食材です。

おわりに

「栗は手間がかかる」と思い込んでいた方も、下処理のコツや保存法を知れば、ぐっと身近に楽しめるはず。
定番の栗ご飯から、ちょっとしたおやつ、そして本格的な渋皮煮まで・・・
ぜひ今年の秋は、栗を台所に迎えてみてください。
ほっくりとした栗の甘さに、しみじみと季節の移ろいを感じることができますよ♪


参考文献

  • 『食材図典 日本の食材』小学館、2001年
  • 農林水産省「野菜・果実の知識 栗」
  • 日本食品標準成分表2020年版(八訂)「くり」 文部科学省
  • 長野県果樹試験場「栗の保存と利用」

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