~和ごころ素材図鑑~
このシリーズでは、季節ごとの食材をていねいに紹介しています。
野菜や魚、乾物やお肉など、和食に寄り添う素材たちの魅力を知って、台所でのひとときをもっと楽しく。

とんかつやしょうが焼き、具だくさんの豚汁など、和食の中でも定番とされる料理はたくさんありますよね。

豚肉はビタミンB群を多く含み、疲労回復や美容にも役立つ、栄養面でも頼もしい食材でもあります!

この記事では、和食における豚肉の歴史や部位ごとの特徴、定番レシピ、栄養面の魅力までを、なるべくわかりやすくご紹介します。

日々の食卓で、より上手に豚肉を取り入れるヒントになれば幸いです。


1.和食における豚肉の歴史と広がり

かつて日本では長く肉食が禁じられていました。

明治時代に入ってから豚肉は本格的に普及し始めました。沖縄では古くから「鳴き声以外はすべて食べる」と言われるほど豚肉料理が発達しており、本土にもさまざまな形で広がっていきました。

現代では全国各地でブランド豚が育成され、柔らかさや脂の甘みを楽しめる日本独自の豚肉文化が根づいています。

ミニコラム①|豚肉と地域の食文化

沖縄では「豚は鳴き声以外すべて食べる」と言われるほど、昔から豚肉が生活に根づいてきました。ラフテーやソーキそばなど、沖縄料理の定番には必ず豚肉が登場します。

一方、関東では肉じゃがや味噌汁に豚肉を使う「豚肉文化」が強く、関西では牛肉を使う傾向があるなど、地域ごとの違いも面白い特徴です。豚肉の使い方から、その土地の暮らしや歴史が垣間見えるのも和食の奥深さですね。

近年は全国各地で地域の特性を生かしたブランド豚が育てられています。脂の甘みや赤身のうま味、飼料や飼育方法の工夫によって、それぞれに個性があるのが魅力です。

  • 三元豚(さんげんとん)
     「大ヨークシャー」「中ヨークシャー」「デュロック」の3品種を掛け合わせた豚。肉質が柔らかくクセがなく、スーパーなどでも手に入りやすい定番。
  • やまと豚(群馬県)
     穀物中心の専用飼料で育てられた豚で、脂はさっぱり、赤身は柔らか。ロースとんかつやしゃぶしゃぶに最適。
  • アグー豚(沖縄県)
     在来種を元に改良されたブランド豚。脂の旨みが濃厚で、甘みのある脂身が特徴。沖縄そばやラフテーなど郷土料理に欠かせません。
  • TOKYO X(東京都)
     東京都が開発したブランド豚。きめ細やかな肉質とあっさりした脂が特徴で、首都圏の飲食店でも注目度が高い。
  • 鹿児島黒豚(鹿児島県)
     さつまいもを飼料に与えることで、甘みのある脂とコクのある赤身に仕上がる。しゃぶしゃぶや黒豚とんかつが有名。

ミニコラム②|千代幻豚(長野県飯田市)

千代幻豚は、筆者の地元、長野県飯田市で飼育されている中ヨークシャー種を基にした希少豚です。年間出荷頭数が少なく“幻”と呼ばれるほどの存在です。

肉質はきめ細かく柔らかで、脂は甘みがありながらもあっさり。しゃぶしゃぶや塩焼きで食べると、その上品な旨みが際立ちます。

地元・南信州の気候風土と丁寧な飼育環境が育んだブランド豚として、知る人ぞ知る食通向けの逸品です。


2.部位ごとの特徴と和食での活かし方

部位特徴向いている料理例(和食)
肩(カタ)赤身が多く、やや硬め。煮込むほど柔らかく旨みが出る。豚汁、角煮、味噌煮込み
肩ロース脂と赤身のバランスがよく濃厚。万能な部位。しょうが焼き、酢豚、炒め物
ロースきめ細かく柔らかい。旨みのある脂が特徴。とんかつ、ポークソテー
ヒレ最も柔らかく脂が少ない。上品な味わい。ヒレカツ、照り焼き
バラ脂が多くジューシー。煮ても焼いても美味しい。豚バラ大根、焼き豚
モモ脂控えめで赤身が主体。あっさりとした味。ローストポーク、薄切りの豚汁
豚こま切れ肉部位混合で扱いやすくコスパも高い。肉じゃが、炒め物

3.和食の定番料理

豚肉は、部位ごとに調理法を変えることでさまざまな料理に活用できます。
ここにあげたのは、家庭で親しまれているた~くさんある豚肉料理の中から、代表的な定番の和食料理です。

■ 豚のしょうが焼き(ロース・肩ロース)

香ばしい甘辛だれにしょうがを効かせ、ご飯が進む王道の一品。
フライパンで焼き上げると豚肉の旨みが引き立ちます。

👉 ワンポイント:タレは焼き終わりに絡めると照りよく仕上がります。


■ 豚汁(肩・モモ)

根菜や豆腐と煮込んで、旨みたっぷりの味噌汁に。
寒い季節には体を芯から温めてくれる家庭の味です。

👉 ワンポイント:豚肉は最初に軽く炒めてから煮込むと旨みが引き出せます。


■ 豚バラ大根の甘辛煮(バラ)

脂のコクが大根に染み込み、箸が止まらない美味しさ。
煮込むほどに味わいが深まる冬の定番料理です。

👉 ワンポイント:大根は下ゆでしてから煮ると味がよく染みます。


■ ヒレカツ(ヒレ)

脂が少なく柔らかなヒレ肉を使った上品な揚げ物。
衣はサクサク、中はしっとりとして軽やかにいただけます。
👉 ワンポイント:低めの温度でじっくり揚げると中まで柔らかく仕上がります。


■ 肉じゃが(豚こま)

ほくほくのじゃがいもに豚肉の旨みが溶け込みます。
関東では豚肉を使う家庭も多い、親しみのあるおかずです。
👉 ワンポイント:煮込む際は落とし蓋をすると具材に均一に味がしみ込みます。


4.豚肉を美味しくする下ごしらえの工夫

豚肉の味わいをより引き出すためには、ちょっとした下ごしらえが大切です。
調理前のひと工夫で、仕上がりの食感や風味がぐっと良くなります。

  • 筋切り
     ロースやヒレは表面と脂身の境目に白い筋があります。包丁の先で1〜2cmほど切れ目を入れると、加熱時の反り返りや縮みを防げます。
  • 塩麹や味噌漬け
     豚肉に塩麹や味噌だれを薄く塗り、ラップで包んで半日ほどおくと、酵素の働きで柔らかく旨みが増します。焦げやすいので、焼く際は表面を軽く拭ってから調理するとよいです。
  • 冷凍保存
     1回に使う量ごとに小分けし、ラップ+保存袋に入れて空気を抜いて冷凍。薄切り肉はシートを挟むと使いやすいです。解凍は冷蔵庫でじっくり行うとドリップが出にくく、風味を保てます。

🥩 ドリップとは

肉や魚を保存したり解凍したりするときに出てくる、赤っぽい液体のことを「ドリップ」といいます。
見た目は血のようですが、実際には 肉の細胞から流れ出た水分とたんぱく質(ミオグロビンなど) を含んだ汁です。

できるだけドリップを出さない工夫ができると、肉の旨みや栄養素が流れ出さず、豚肉の風味やジューシーさを保つことができます。


5.豚肉の栄養と健康効果

豚肉は、美味しいだけでなく健康にも役立つ栄養素をたっぷり含んでいます。

  • 豚肉は「疲労回復のビタミン」と呼ばれる ビタミンB1 が豊富。エネルギー代謝を助け、夏バテや日々の疲れをやわらげる効果があります。
  • また鉄分亜鉛も含まれ、貧血予防や免疫力アップにも役立つ食材です。
  • 脂肪分は部位によって大きく異なるため、食べたい料理や体調に合わせて選ぶのがおすすめです。

ミニコラム③|豚肉は“疲労回復の味方”

豚肉は「ビタミンB1」が豊富で、エネルギー代謝を助ける働きがあります。特にご飯や麺など炭水化物と一緒に食べると、効率よく栄養を吸収でき、疲れを感じやすいときにぴったりです。

夏バテ対策に「冷しゃぶサラダ」、忙しい日のエネルギーチャージに「豚汁」など、季節や体調に合わせて取り入れてみてください。


6.豚ひき肉の特徴と和食での使い方

豚ひき肉は赤身と脂身をバランスよく挽いたもので、コクとジューシーさが特徴です。調理がしやすく、和食でもさまざまな料理に活用されています。

  • そぼろ
     しょうゆや砂糖で甘辛く炒め煮にした豚そぼろは、ご飯や麺類に合わせやすい常備菜。
  • 和風ハンバーグ
     玉ねぎや豆腐を加えてふんわり仕上げれば、しょうゆベースの和風ソースとも相性抜群。
  • 肉味噌
     炒めたひき肉に味噌・しょうゆ・みりんを合わせた万能調味料。ご飯やうどんにのせて簡単に主役の一皿になります。
  • 餃子・しゅうまい
     野菜と合わせて包む料理も人気。にんにく・しょうがで風味を補うと旨みが際立ちます。

ワンポイント:脂が多めのひき肉はコク深く、赤身が多いものはあっさり仕上がるので、料理に応じて選ぶのがおすすめです。

おわりに|豚肉で広がる和食の可能性

豚肉は部位ごとにまったく違う表情を持っているので、煮る・焼く・揚げる・蒸すといった和食のあらゆる調理法に対応できる万能な食材ですね。

しょうが焼きやとんかつといった定番から、豚汁や煮物などの郷土料理まで、あげたら数えきれないほどの豚肉料理がでてきます。

あらためて豚肉の特徴や調理法を知ることで、日々の献立に新しい発見や楽しみが生まれるかもしれまん。ぜひ、みなさまの台所での和食づくりに役立てていただけたら幸です。


参考文献・出典元

農畜産業振興機構「豚肉の消費と食文化」
日本ハム「豚肉の部位と特徴」
キッコーマン「豚肉の下ごしらえのコツ」
東京ガス くらし情報「豚肉の栄養と特徴」


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