~和ごころ素材図鑑~
季節の移ろいとともに、旬を迎える日本の食材たち。
そのひとつひとつには、自然の恵みと、昔から受け継がれてきた知恵が息づいています。
「和ごころ素材図鑑」では、そんな和の素材を、旬・産地・調理法・行事との関わりなど、暮らしに寄り添う目線でご紹介します。
雪解けの地面から、ひょっこりと顔を出す蕗の薹。独特のほろ苦さと、鼻に抜ける香りが特徴の山菜です。
好き嫌いが分かれる味かもしれませんが、この苦味こそが、春を迎える合図のようにも感じられます。
天ぷらにしたり、ふき味噌にしたり。少し添えるだけで、いつもの食卓が季節のある一皿に変わってくれる——蕗の薹は、そんな力を持った素材です。
この記事では、「蕗の薹ってどんなもの?」「どんな料理に向いているの?」苦味と上手につきあう下処理は?
——そんな疑問を、ひとつずつやさしく解きほぐしていきます。
蕗の薹とは
分類:山菜(春)

蕗の薹は、ふきの花芽の部分。地上に茎や葉を広げる前、いちばん最初に姿を現します。
古くから日本では「春を告げる山菜」として親しまれ、天ぷらやふき味噌など、香りを生かした料理に使われてきました。
ふきの葉が大きく育つ前の、ほんの短い期間だけ味わえる“旬の恵み”です。
種類について|「蕗の薹」と「蕗」の違い

蕗の薹そのものに、実ははっきりとした品種名の違いはありません。
というのも、蕗の薹は蕗(ふき)の花が咲く前の芽にあたる部分。つまり、「どの蕗から出たか」によって、見た目や味わいに違いが生まれます。
日本で見られる蕗には、いくつかの種類があります。
- 野生の蕗(山蕗・里蕗)
山や野原に自生する蕗。ここから出る蕗の薹は、香りが強く、苦味もしっかりしています。- 栽培されている蕗(水蕗・愛知早生ふき など)
食用として育てられている蕗の代表的な種類が水蕗です。
愛知早生ふきは、その中でもよく知られた品種のひとつ。これらの蕗から出る蕗の薹は、苦味が比較的やさしく、初めて扱う方にも取り入れやすい傾向があります。- 大型の蕗(秋田蕗など)
葉柄が大きく育つ蕗。蕗の薹も大ぶりになりやすく、存在感のある姿になります。いずれも呼び名は「蕗の薹」で共通ですが、育った環境や土地によって、香りや苦味に個性が出る——それが、この山菜のおもしろさですね。

蕗の薹は、「品種で選ぶ山菜」ではなく、その年、その土地で出会う山菜。毎年少しずつ違う味わいも、春の楽しみですね。
旬について|蕗の薹がいちばんおいしい時期
蕗の薹の旬は、冬から春へと移り変わる、ほんの短い期間です。目安としては、2月下旬から4月上旬ごろ。
ただし、この時期は蕗の種類や育つ環境によって前後します。
栽培されている蕗の薹は、比較的早い時期から出回るのが特徴。
水蕗や愛知早生ふきなどは、暖地では立春の頃(2月4日頃)から姿を見かけることもあり、ひと足早く春の味を届けてくれます。
一方、山野に自生する蕗から出る蕗の薹は、雪解けとともにゆっくりと芽吹きます。寒冷地では3月以降になることも多く、その土地ごとの春の訪れを映す存在ともいえますね。
また、同じ場所でも、つぼみが固く締まっている時期がいちばん香り高く、開きはじめるにつれて苦味が増していきます。
成長の早さも蕗の薹の特徴で、「見かけたときが食べ頃」といわれることもあります。
蕗の種類や土地によって少しずつ異なる旬。その違いを感じながら味わうのも、蕗の薹ならではの楽しみですね。
蕗の薹のような「春の苦味」とあわせて、立春に食べられてきた行事食についても、紹介しています。
▶ 🔗立春の行事食|意味と由来、季節を迎える食卓の考え方
選び方のポイント|味わいと料理に合わせて

蕗の薹は、見た目の小さな違いが、味わいや向く料理に大きく影響します。
選ぶときは、「鮮度」「つぼみの開き具合」「大きさ」を意識してみてください。
基本のチェックポイント
- つぼみが固く締まっているもの
開きすぎていないものは、香りがよく、えぐみが出にくい傾向があります。 - 葉先がみずみずしいもの
乾燥していたり、黒ずみが強いものは避けましょう。 - 全体にハリがあるもの
しなびているものは、香りが飛びやすく、苦味だけが立ちやすくなります。
味わいの違いで選ぶ
- 苦味をしっかり楽しみたい場合
やや大きめで、つぼみが少しゆるみ始めたもの。
香りと苦味が強く、山菜らしさを感じられます。 - 苦味を控えめにしたい場合
小ぶりで、つぼみが固く締まったもの。
えぐみが少なく、初めての方にも向いています。
料理別|蕗の薹の選び方
天ぷらにするなら
- 小ぶり〜中くらい
- つぼみが開きすぎていないもの
衣で包むことで、苦味がやさしくなり、香りが引き立ちます。
ふき味噌にするなら
- 香りが強いもの
- やや開き気味のもの
刻んで使うため、苦味と香りがしっかりしたものが向きます。
炒め物・和え物にするなら
- 中くらいのサイズ
- ハリがあり、みずみずしいもの
油との相性がよく、少量でも春らしい一品になります。

蕗の薹は、「いちばん若いものが正解」という素材でなく、どんな料理に使いたいかがポイントです。
下処理の基本|苦味と上手につきあう
蕗の薹の魅力は苦味。ただし、料理によっては少し和らげるほうが、美味しく食べられる場合もあります。
基本の下処理
※ さらしすぎないのがコツ。香りと風味を残したい場合は、さっとで十分です。
定番の食べ方・料理

天ぷら
衣で包むことで、苦味がやさしくなり香りが立ちます。
塩で食べると、蕗の薹らしさが引き立ちます。
ふき味噌
刻んだ蕗の薹を味噌・砂糖・みりんで炒める保存食。
ごはん、焼きおにぎり、田楽、冷奴にも相性抜群です。
炒め物・和え物
油との相性が良く、少量でも季節感のある一品に。

どの料理も、たくさん作らず、少量で季節を味わうのが蕗の薹らしさ。香りが立つうちに楽しんでください♪
保存方法|香りと苦味を大切にするために
蕗の薹は、摘みたての香りを楽しむ山菜。時間が経つほど、香りが飛び、苦味も立ちやすくなります。
できるだけ早めに使い切るのが基本ですが、保存する場合は、状態に合わせて扱いましょう。
生のまま保存する場合(短期)
- 外側の汚れを軽く落とす
- 乾燥しないよう、新聞紙やキッチンペーパーで包む
- ポリ袋や保存容器に入れ、冷蔵庫の野菜室へ
この方法で、2〜3日程度が目安です。水に浸したまま保存すると、香りや風味が抜けやすくなるため避けましょう。
下処理後に保存する場合
軽く下処理をしてから保存すると、調理までの手間を減らすことができます。
- 外葉を外し、根元を整える
- さっと水にさらし、水気をよく拭く
- 密閉容器に入れて冷蔵保存
こちらも、早めに使い切るのがおすすめです。
加工して保存する場合
蕗の薹は、ふき味噌などに加工してから保存するのもひとつの方法です。
- 冷蔵保存:1週間ほど
- 小分けにして冷凍:1か月程度
冷凍すると香りはやや穏やかになりますが、少量ずつ使えるため、春の名残を楽しむには向いています。

蕗の薹は、長く保存するよりも、「旬のうちに、少しだけ味わう」素材。
保存はあくまで補助として、香りのあるうちに楽しみたいですね。
おわりに|蕗の薹という、春の合図

蕗の薹は、見た目や苦味の印象から、少し扱いづらそうに感じるかもしれません。
けれど、外葉を整えて、ほんのひと手間かけるだけ。天ぷらにしても、味噌に混ぜても、意外なほど、すっと食卓になじんでくれます。
たくさん作らなくていいのも、蕗の薹のいいところ。
少しだけ季節を取り入れる——それだけで、春らしい一皿になりますね。
今年、もし蕗の薹を見かけたら、「難しそう」と思わずに、まずはひとつ。やってみると案外気軽で、春の楽しみが、ひとつ増えるかもしれません。
参考元
- 農林水産省|山菜・ふきに関する基礎情報
- 日本食品標準成分表(文部科学省)|ふき・山菜類の成分
- 地方自治体・地域農業振興資料(山菜の利用・食文化に関する解説)
蕗の薹を味わう頃、暦の上では春を迎える準備が進んでいます。節分の食卓についての記事はこちら。
▶ 🔗節分の行事食
節分の翌日。春の始まりを食卓で感じる、立春の行事食についてはこちら。
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