~和ごはん歳時記~
季節がひとつ動くたびに、台所にも小さな変化が訪れます。
昔から受け継がれてきた行事や、その日に食べたい和のおかずたち——そんな“季節のしるし”を、日々のごはんといっしょに楽しんでみませんか。
「和ごはん歳時記」では、その月らしい習わしや、心ほっとする和のごはんをやさしくお届けします。季節の台所に、そっと寄り添うことができますように。
お正月の食卓に並ぶ「お屠蘇」。
なんとなく毎年いただいているけれど、その意味までは知らない、という方も多いのではないでしょうか。
おせちやお雑煮と同じように、お屠蘇もまた、年のはじめを健やかに迎えるための大切な習わしのひとつです。
静かに盃を口に運ぶ、その一杯には、古くから受け継がれてきた祈りと知恵が詰まっています。
この記事では、お屠蘇に込められてきた意味や歴史をたどりながら、現代の暮らしに取り入れやすい楽しみ方までをわかりやすくご紹介します。
お屠蘇とは?

お屠蘇(おとそ)は、元日の朝にいただく、日本の伝統的な祝い酒です。年の初めに家族そろって口にすることで、一年の無病息災と長寿を願うという意味が込められています。
おせち料理と並び、日本のお正月に欠かせない風習のひとつですが、その背景には、薬・祈り・儀礼が重なり合った、奥深い歴史があります。
お屠蘇の由来|中国医学に始まる「年を祓う酒」
お屠蘇の起源は、古代中国にさかのぼります。
中国では、年の変わり目は病や邪気が入り込みやすいと考えられており、薬草を酒に浸して飲み、悪気を祓う風習がありました。
この薬酒が「屠蘇(とそ)」と呼ばれ、
- 「屠」…邪気や疫病を断ち切る
- 「蘇」…命をよみがえらせる
という意味を持つと伝えられています。
日本への伝来と定着|平安貴族から庶民へ
お屠蘇が日本に伝わったのは平安時代。当初は、宮中や貴族の間で行われる年始の儀礼でした。
やがてお屠蘇の風習は武家社会へと広がり、江戸時代になると町人文化の中にも浸透していきました。
こうして身分を越えて受け継がれるようになり、次第に家族の健康を願い、新しい年を迎える正月の習わしとして定着していったのです。
江戸時代には、屠蘇散(とそさん)が薬屋で売られ、庶民も手軽にお屠蘇を用意できるようになりました。
お屠蘇に込められた意味|薬酒であり、祈りの酒
お屠蘇は、単なる祝い酒ではありません。
一年のはじまりに、身体と暮らしを整えるための“薬”としての意味を持っています。
主な意味
- 無病息災
- 厄除け・邪気払い
- 家族の長寿と繁栄
「飲むことで一年を清める」そんな、静かで力強い願いが込められています。
お屠蘇の作り方|屠蘇散(とそさん)を使った基本
屠蘇散とは

屠蘇散は、数種類の生薬をブレンドしたもの。代表的な配合例には、次のような素材があります。
- 白朮(びゃくじゅつ)
- 桂皮(けいひ/シナモン)
- 山椒
- 防風
- 乾姜(かんきょう)
※配合は地域や薬舗によって異なります。
基本の作り方
- 年末に屠蘇散を用意する
- 大晦日の夜、または元日の朝に
- 日本酒
- またはみりん
に浸す
- 数時間〜一晩置く
- 元日の朝にいただく
アルコールが苦手な方は、みりんや少量仕込みでも◎。
飲み方の作法
お屠蘇には、独特の飲み方の習わしがあります。
まず、年少者 → 年長者 の順で飲む。
これは、「若い人の生命力を年長者に分ける」という考え方に由来すると言われています。
盃を回しながら飲むことで、家族の命と縁をつなぐ意味合いも含まれています。
屠蘇器について|三段重ねの盃

お屠蘇には、三段重ねの盃(屠蘇器)を使うのが正式とされています。
- 小:若者
- 中:大人
- 大:年長者
と、順に重ねて用います。

なかなか屠蘇器までそろえるのは…というご家庭も多いと思います。ぜひ家にあるお気に入りの盃で♪しきたりではなく、大切な人の健康を願う、その気持ちがいちばん大切です!
現代の暮らしに合うお屠蘇の楽しみ方
現代の暮らしの中では、お屠蘇を用意していただく機会そのものが、以前に比べて少なくなっているように感じます。お正月の過ごし方が多様になり、家族の集まり方や生活リズムが変わったことも、その理由のひとつかもしれませんね。
お屠蘇の風習は「必ず飲まなければならないもの」ではありません。
大切なのは、新しい年を健やかに迎えたいと願う気持ちそのもの。実際に用意できなくても、「こんな文化があるんだ」と知り、思いを寄せるだけでも、日本の正月の過ごし方は少し豊かになるような気がします。
たとえば、家族が集まるときだけ少量用意したり、アルコールが苦手な場合はみりんで仕込んだりと、無理のない形で取り入れても。
また、お屠蘇をいただかずとも、その意味や由来を話題にしながら年の始まりを迎えることも、立派な受け継ぎ方のひとつです。
おわりに|年のはじめに、体と心を整える一杯

お屠蘇は、華やかさよりも、静かな祈りを大切にする風習です。慌ただしい日常に戻る前の、ほんのひととき。
新しい年を迎えた朝、家族と盃を交わしながら、「今年も健やかに過ごせますように」と願いを込めて。
参考元
- 農林水産省|日本の食文化「正月の食と行事」
- 日本薬史学会 編『日本の薬と民間信仰』
- 国立国会図書館デジタルコレクション|屠蘇・屠蘇散に関する江戸期資料
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