~和ごはん歳時記~
季節がひとつ動くたびに、台所にも小さな変化が訪れます。
昔から受け継がれてきた行事や、その日に食べたい和のおかずたち——そんな“季節のしるし”を、日々のごはんといっしょに楽しんでみませんか。

「和ごはん歳時記」では、その月らしい習わしや、心ほっとする和のごはんをやさしくお届けします。季節の台所に、そっと寄り添うことができますように。

お正月三が日の、ちょうど真ん中。南信州では、1月2日に「すり初め(すりぞめ)」と呼ばれる習わしがあります。

すり初めと聞くと、ごまをする、白和えを作る——そんなイメージを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、南信州でいう「すりぞめ」は、長芋をすって食べることを指します。

おせちのごちそうがひと段落し、少し静かになった正月二日の台所で、すり鉢を手に取り、長芋をする——。それは派手な行事ではなく、新しい年、気持ちを新たに台所に立つための、静かな区切りのような食事です。


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南信州の「すり初め(すりぞめ)」とは

南信州のすりぞめは、1月2日に長芋をすり、ご飯にかけて食べる正月料理です。

絶対これといった決まった作法があるわけではなく、それぞれの台所の数だけ、すりぞめがあると思いますが、多くの家庭では山芋をすり、だしや醤油、卵などをいれてすり混ぜたとろろ芋を、熱々のご飯にかけて食べます。

元日は、年神様を迎える「ハレ」の日。残ったお節料理を食べたり(南信州では「おとしとり」といって、多くの家庭では12月31日の大晦日にお節料理を囲んでにぎやかに行く年くる年を祝います)、お雑煮を食べたりと、にぎやかに過ごします。

その翌日の1月2日は、気持ちも食卓も、少し落ち着く日。この日にすりぞめ行うことで、ごちそう続きだった身体をいったん整え、日常へ戻る準備をします。

祝う → 整える → 日常へ
すりぞめは、その「整える」役割を担う正月の行事です。

すりぞめの主役は、包丁ではなくすり鉢です。
長芋をする音、手に伝わる粘り。火を使わず、手の動きだけで仕上がる料理だからこそ、子どもが手伝った記憶として残っている方も多いかもしれません。

正月が終わる、というよりも、「台所がまた動き出す」——すりぞめは、その合図のような意味合いがあるのかもしれません。

「はい、交代」祖母から手渡されるすりこ木で、とにかく芋をする——腕が疲れ、もう無理~となったら、「はい、交代!」。これがしばし続きます。
子ども心に「どれだけするんだ?ばあちゃん…」。今思うと、家事のほとんどを担っていた祖母の、新年の気合いだったのかな~と懐かしく思い出されます♪


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レシピ|南信州のすりぞめ(長芋のとろろご飯)

南信州のすりぞめは、料理というより食べ方そのもの。長芋をすり、だしでのばし、
熱いご飯にかけていただきます。正月明けの身体に、すっと染みるやさしい味わいです。

  • 長芋……200〜250g
  • 卵……1個
  • だし……40〜60ml
    ※下記を参照に。
  • 温かいご飯……適量

薬味(お好みで)

  • 青のり
  • 小ねぎ
  • 刻みネギ
  • わさび  など

だしの目安(2人分/長芋200〜250g)

  • だし …… 40〜60ml
  • 濃口しょうゆ …… 小さじ2
  • みりん(煮切ったもの) …… 小さじ2

長芋はもともと水分が多いため、だしは濃いめに作るのが南信州のすりぞめ。

ご飯にかけたときに味がぼやけないよう、だしは「少し濃いかな?」と感じるくらいがちょうどよい加減です。

すりぞめは、分量をきっちり量る料理ではない気がします。実は私は量ったことがありません^^;。
今回紹介した分量はあくまでも目安に。芋の種類や、その日の状態を見ながら、だしを足し、味を整えていく——
そんな向き合い方が、すり初めの正解かと、勝手におもっています。

STEP1
だしを用意する

だしに濃口しょうゆとみりんを加え、甘辛い味に整える。

STEP2
長芋をする

長芋は皮をむき、すり鉢、またはおろし金でする。滑らかになるまでよくすり混ぜる。

STEP3
卵を加える

卵を割り入れ、すり混ぜる。

STEP4
だしでのばす

少しずつだしを加え、とろみと味を調整する。

STEP5
盛り付ける

熱いご飯にかけ、薬味を添えていただく。


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芋の種類によって変える、だしの加減

すりぞめのだし加減は、使う芋の種類によって変えるのがおすすめ。

長芋は水分が多いので、だしは濃く作り量は控えます。

一方、大和芋やつくね芋、さらに自然薯などは粘りが強く、水分が少ないのでだしは薄めに作り、多めに加えてのばすと、重たくなりすぎず、口当たりよく仕上がります。

芋の種類に合わせて、だしを調整するのは、すり初めに限らずとろろご飯を作るときにはオススメの方法です。

ちなみに、正月のすり初めの頃出回るのは長芋です。同じ長野県の東筑摩郡山形村の長芋は有名で、南信州でも食べられています。


卵を入れる/入れないで変わる口当たり

卵を入れると、まろやかでやさしい口当たりになります。入れない場合は、芋そのものの粘りと風味が際立ちます。

すり初めでは卵を入れる家庭が多いようですが、どちらが正しい、ということはありませんので、その日の体調やお好みでどうぞ。


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すり鉢とおろし金、どちらで作るか

すり鉢では、よりきめ細かく空気を含んだやさしい口当たりになります。おろし金は、少し粗くはなりますが、何よりも手早く楽にでき、芋の存在感もでます。

おすすめはすり鉢で直接することですが、労力や時間、気分に合わせて選んでくださいね。

ミニコラム 三日とろろという習わし

地域によっては、1月3日に「三日とろろ」を食べる風習があります。
正月のごちそうで疲れた胃腸を休め、日常へ戻るための一杯です。

南信州では、この役割を1月2日の「すりぞめ」が担ってきたと考えると、地域ごとの正月の過ごし方の違いが見えてきて面白いですね。

三日とろろに関する記事はこちらへ


おわりに

南信州のすりぞめは、正月のための特別料理というより、その年の台所を始めるための一皿

長芋をすり、湯気の立つご飯にかけるという、一見地味で静かな食卓にですが、新しい一年への切り替えの意味が、そっと込められています。


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\和だし帖|だしの基本/

\1月の行事食カレンダーはこちら/

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