―― 時間が育てる、うま味の知恵 ――
乾物は、旬の恵みを大切に使い切るために生まれた、日本の台所の知恵です。
乾かすことで引き出される、やさしいうま味。
水に戻すことで、ふたたび広がる香りと味わい。
和ごころ素材図鑑【乾物】シリーズでは、乾物それぞれの背景や使い方を、暮らしに寄り添う目線でご紹介していきます。
干し椎茸は、日本の台所で長く使われてきた、身近な乾物のひとつです。煮ものや炊き込みごはん、だしとして——気づかないうちに、日常の料理の味を支えてくれています。
生の椎茸とは違い、乾かすことで引き出される、深いうま味と香り。水に戻すひと手間も、料理をおいしくするための大切な工程です。
この記事では、干し椎茸の種類や戻し方、扱い方を、料理目線であらためて見つめていきます。
干し椎茸とは

うま味を蓄え、料理を支える乾物
干し椎茸は、生の椎茸を乾燥させて作る、日本を代表する乾物です。
煮ものやだし、精進料理など、派手さはなくとも、料理の味わいを静かに底支えしてきました。
生の椎茸と大きく違うのは、そのうま味の質と深さ。干すことで椎茸に含まれる成分が変化し、料理に使ったとき、味に「厚み」や「奥行き」をもたらします。
この違いこそが、干し椎茸が今も台所で使われ続ける理由です。
生の椎茸とのちがい
生椎茸は、みずみずしく、香りは軽やか。炒め物や焼き物、鍋ものなど、素材そのものを味わう料理に向いています。
一方、干し椎茸は、水分を抜くことで香りと成分が凝縮され、戻したときに、だしとしても成立するほどのうま味を放ちます。
火を通しても味がぼやけにくく、煮ものや含め煮、炊き込みごはんなど、「味を含ませる料理」で力を発揮します。
料理を仕上げる主役というより、味の土台をつくる存在——それが干し椎茸です。
干すことで生まれる「うま味」
干し椎茸のうま味の正体は、「グアニル酸」という成分です。これは、生の椎茸にはほとんど含まれず、乾燥させる過程で増えるのが特徴。
さらに、かつお節や昆布のだしと合わせることで、うま味同士が引き立ち合い、味にぐっと立体感が生まれます。昔から精進料理や和食で重宝されてきたのも、この相乗効果が経験的に知られていたからでしょう。
「干し椎茸の戻し汁を捨てない」という台所の知恵も、ここに理由があります。
保存食から、料理の要へ
もともと干し椎茸は、保存のために生まれた食材です。収穫期の椎茸を無駄にせず、季節を越えて使うための工夫でした。
けれど、乾燥という工程を経ることで、ただの保存食では終わらず、料理の味を決める存在へと役割を広げていきます。
だしを取る。
煮ものに使う。
刻んで混ぜ込む。
使い方は多くなくても、ひとつ加えるだけで、料理の印象が変わる。それが、干し椎茸という乾物の力です。
料理目線で見る、干し椎茸の立ち位置
干し椎茸は、「特別な日の食材」ではありません。
日々の煮ものや、炊き込みごはん、野菜のおかずに少し加えるだけで、味に芯が通ります。
手間がかかりそう、扱いが難しそう——そんな印象を持たれがちですが、使い方がわかると、むしろ頼れる常備食材。
このあとの章では、干し椎茸の選び方や戻し方、料理ごとの使い分けを、実用目線でご紹介していきます。

まず知っておきたいのは、「どんな干し椎茸を選ぶか」。
原木栽培と菌床栽培の違いから見ていきましょう。
原木栽培と菌床栽培の違い

干し椎茸には、大きく分けて「原木栽培」と「菌床栽培」の2種類があります。
どちらが正解、ということではなく、料理によって向き・不向きがあるのが実際のところです。
ここでは、味や香り、使いどころを中心に、紹介していきます。
原木栽培の干し椎茸
―― 香りとうま味に奥行きがある
原木栽培は、クヌギやコナラなどの原木に菌を打ち込み、自然に近い環境で時間をかけて育てる方法です。
この方法で育った干し椎茸は、戻したときの香りが深く、味に厚みがあります。
戻し汁もだしとして使いやすく、煮ものや含め煮、精進料理など、素材のうま味を前に出したい料理に向いています。
特に、
- 椎茸そのものを主役にする煮もの
- だしとしてしっかり使いたい料理
- 具材が少なく、味の輪郭がはっきり出る料理
こうした場面では、原木栽培の力がよく発揮されます。
価格はやや高めですが、「少量でも味が決まる」という意味では、満足度の高い選択肢です。
菌床栽培の干し椎茸
―― 安定感があり、日常使いしやすい
菌床栽培は、おがくずなどを固めた培地で育てる方法。生産が安定しており、価格も比較的手頃です。
香りは原木栽培に比べると穏やかですが、クセが少なく、料理になじみやすいのが特徴。刻んで使ったり、他の具材と合わせる料理では、扱いやすいです。
たとえば、
- 炊き込みごはん
- 混ぜごはんの具
- 野菜炒めや和え物の具材
など、全体の一部として使う料理には、菌床栽培の干し椎茸がちょうどよく働きます。
「毎日のごはんに無理なく使える」そんな位置づけの干し椎茸です。
干し椎茸の種類
干し椎茸には、栽培方法(原木・菌床)とは別に、形や成熟度による呼び名があります。代表的なのが、「どんこ」と「こうしん」です。
こちらもどちらが上、ということではなく、料理によって向きがはっきり分かれるのが、この分類の特徴です。
どんこ
―― 肉厚で、存在感を味わう干し椎茸

「どんこ」は、傘が完全に開ききる前、肉厚な状態で収穫・乾燥された干し椎茸です。傘が丸く、裏側のひだが詰まっているのが特徴。
戻すと、
- ふっくらと厚みがあり
- 噛むほどにうま味がにじみ出る
干し椎茸そのものを食べる料理に向いています。
おすすめの使い方
- 椎茸の含め煮
- 煮しめ(お節料理)
- 精進料理の主役として
料理人目線での使いどころ
「椎茸を味わわせたい」一品には、どんこが最適です。
こうしん
―― 香りがよく、だし・刻み使いに向く

「こうしん」は、傘がしっかり開いてから収穫・乾燥されたもの。薄く、傘が大きく開いているのが特徴です。
どんこに比べると身は薄めですが、香りが立ちやすく、戻し汁も使いやすいのが魅力。
おすすめの使い方
- だし取り
- 炊き込みごはん
- 刻んで混ぜ込む料理
- 煮ものの風味づけ
料理で考える、どんこ・こうしんの選び方
| 種類 | 特徴 | 向いている料理 |
|---|---|---|
| どんこ | 肉厚・食感がよい | 含め煮、煮しめ、主役料理 |
| こうしん | 香りがよい・薄め | だし、刻み使い、炊き込みごはん |
椎茸そのものを味わいたいか、香りや風味づけに使いたいか
——そんなふうに考えると、選びやすくなります。

とはいえ・・・
毎日のお料理では、種類にこだわりすぎなくても大丈夫。
無理なく使える干し椎茸でまずは試してみてください。それでも美味しさを十分感じることができます♪
干し椎茸の戻し方の基本

干し椎茸は、戻し方ひとつで味わいが大きく変わる乾物です。
特に、肉厚な「どんこ」と、香りの立ちやすい「こうしん」では、戻し方の考え方も少し異なります。
ここでは、料理に使いやすい基本の戻し方を、種類別にご紹介します。
基本は「冷水で、ゆっくり」
どんこ・こうしん、どちらの場合も、干し椎茸のうま味をしっかり引き出すなら、冷水戻しが基本です。
ぬるま湯や熱湯を使うと、香りは立ちやすくなりますが、うま味成分が十分に溶け出す前に飛んでしまうことがあります。
時間はかかりますが、冷水でじっくり戻すことで、干し椎茸本来の深い味わいが生きてきます。
【どんこ】の戻し方
―― 食感とうま味を大切にしたいとき
どんこは肉厚で、中心まで戻すのに時間がかかります。
無理に急がず、一晩かけて戻すのがおすすめです。
基本の手順(どんこ)
- 表面の汚れを、水で洗い流す
- 密閉容器に入れ、冷水をひたひたに注ぐ
- 冷蔵庫で6〜12時間置く
- 軸の付け根まで柔らかくなったら使用する
戻し終えた椎茸は、しっかり水分を含み、ふっくらとした仕上がりに。含め煮や煮しめなど、椎茸そのものを味わう料理に向いた状態です。
※戻し汁は必ず取っておき、だしとして活用します。
【こうしん】の戻し方
―― 香りを生かし、手早く使いたいとき
こうしんは身が薄く、比較的早く戻ります。冷水戻しでも、2〜4時間程度で十分使える状態になります。
基本の手順
- 表面の汚れを洗い流す。
- 冷水に浸す
- 室温または冷蔵庫で2〜4時間戻す
- 柔らかくなったら刻む・スライスして使う
刻んで使う料理や、炊き込みごはん、だし用途であれば、やや短時間でも問題ありません。
香りが立ちやすいため、戻し汁も料理に少量加えると、全体の風味がまとまります。
急ぐときの戻し方(補足)
時間がない場合は、ぬるま湯(30〜40℃)で30分ほど戻す方法もあります。
ただしこの場合、うま味はやや控えめになるため、だしとしてよりも、具材として使う料理に向きます。
「急ぐ日は具材、余裕のある日はだしまで」と使い分けるのも、現実的な選択です。
戻し汁の扱い方
―― 捨てない、活かす
干し椎茸の戻し汁には、うま味成分が溶け出しているので、ぜひ有効活用しましょう。
- 砂や汚れが気になる場合は、
キッチンペーパーや茶こしで軽くこす - だしとして使う場合は、
煮もの・炊き込みごはん・汁物に
香りが強く出やすいので、入れすぎには注意です。他のだしと合わせて使うと、料理全体がまとまりやすくなります。
干し椎茸の保存方法と扱いの注意点
干し椎茸は保存性の高い乾物ですが、湿気・温度・におい移りには注意が必要です。正しく保存することで、香りとうま味を長く保つことができます。
ここでは、未開封・開封後・戻したあとの扱いまで、料理に使いやすい保存方法をまとめます。
未開封の干し椎茸
購入時の袋のままでも保存は可能ですが、長期間置く場合は、湿気対策を意識しましょう。
- 直射日光を避ける
- 高温多湿を避ける
- 冷暗所で保管する
特に梅雨時や夏場は、密閉容器+乾燥剤に移し替えると安心です。
開封後の干し椎茸
袋を開けたあとは、空気中の湿気を吸いやすくなります。
おすすめの保存方法
- 密閉容器(ガラス瓶・保存袋など)に入れる
- 乾燥剤を一緒に入れる
- 冷蔵庫の野菜室、または冷蔵室で保存
冷蔵庫に入れることで、湿気だけでなく、虫の発生予防にもなります。
冷凍保存という選択肢
意外かもしれませんが、干し椎茸は冷凍保存にも向いています。
- 乾いた状態のまま、密閉して冷凍
- 使うときは、そのまま冷水に浸して戻す
低温で保存することで、香りの劣化を抑えられるうえ、長期保存にも安心です。
戻したあとの保存方法
一度戻した干し椎茸は、生の椎茸と同じ扱いになります。
◆冷蔵保存
- 密閉容器に入れる
- 2〜3日以内に使い切る
◆冷凍保存
- 使いやすい大きさに切る
- 戻し汁ごと、または水気を切って冷凍
- 約1か月を目安に使い切る
煮ものや炒めものに使う場合は、凍ったまま調理しても問題ありません。
取り扱いの注意点
―― ちょっとしたことで、味が変わる
- 湿気ると、香りとうま味が落ちやすい
- しっとりしてきたら、使い切りを優先
- においの強い食品の近くに置かない
白い粉のようなものが表面に出ることがありますが、これはうま味成分が結晶化したもので、カビではない場合もあります。
ただし、異臭や変色がある場合は使用を控えましょう。
干し椎茸の味わいと向いている料理

干し椎茸の魅力は、はっきりと前に出る味というより、料理全体をまとめ、底上げするうま味にあります。
煮汁に奥行きが生まれ、具材同士の味が自然になじむ。そんな働きをしてくれるのが、干し椎茸です。
干し椎茸の味の特徴
干し椎茸のうま味は、コクがありながら、後味は澄んでいます。
- 甘みを含んだやさしいうま味
- 油脂と合わせても重くなりにくい
- 野菜・豆・穀類と相性がよい
このため、精進料理や和食だけでなく、日々のおかずにも自然に溶け込みます。
煮もの・含め煮
―― もっとも力を発揮する料理
干し椎茸が最も得意とするのが、煮ものです。だしと調味料を吸い込みながら、同時にうま味を煮汁へと返してくれます。
- 椎茸の含め煮
- 煮しめ
- 根菜の煮もの
特に「どんこ」は、椎茸そのものを味わう料理に向き、一品の満足感を高めてくれます。
炊き込みごはん・混ぜごはん
―― 香りとうま味を全体に行き渡らせる
刻んだ干し椎茸は、ごはん料理との相性も抜群です。
- 炊き込みごはん
- 混ぜごはん
- ちらし寿司
干し椎茸を使うと、香りが立ちやすく、ごはん全体にうま味が行き渡ります。戻し汁を少量加えることで、だしを取らなくても、味がすっとまとまるのも利点です。
汁物・だし用途
―― 主張しすぎない、静かな存在感
干し椎茸の戻し汁は、それだけでも立派なだしになります。
- すまし汁
- 味噌汁
- 野菜スープ
昆布やかつお節と合わせることで、うま味に立体感が生まれ、料理に深みが出ます。精進料理では、干し椎茸がだしの要となることも少なくありません。
刻んで使う、日常のおかず
干し椎茸は、主役でなくても、料理を支えます。
- 炒めもの
- 和え物
- そぼろや餡の具
細かく刻んで加えるだけで、味に深みが出て満足感が増します。
干し椎茸を使ったおすすめレシピ

干し椎茸の持ち味が伝わりやすいレシピをご紹介しますね。
干し椎茸の含め煮
どんこがおすすめ|椎茸そのものを味わう一品
お節料理や精進料理の定番としてはもちろん、
日々の副菜としても活躍します。
干し椎茸の炒め煮

細切りにして炒め煮にすると、常備菜としても使いやすくなります。
戻し汁の旨みを生かした、簡単レシピです。
▶【干し椎茸の炒め煮】レシピはこちら🔗
干し椎茸の炊き込みごはん
刻んだ干し椎茸と戻し汁を使った、素朴で滋味深い炊き込みごはん。
刻み干し椎茸の常備菜
戻した干し椎茸を細かく刻み、甘辛く炒め煮にした常備菜。
干し椎茸だしの野菜スープ・汁物
干し椎茸の戻し汁を使った、やさしい味わいの汁物です。
おわりに| 時間が育てた、台所の知恵
干し椎茸は、特別な日のための乾物ではありません。ほんの少し加えるだけで、料理に深みとまとまりをもたらしてくれる、頼れる存在です。
どんこ、こうしん。原木、菌床。違いを知ると選びやすくなりますが、毎日の料理では、手に入りやすいものを無理なく使えば十分です。
時間をかけて戻し、うま味を料理に生かす。そんなひと手間が、日々のごはんを、少しだけ豊かにしてくれますよ。
参考元
- 日本椎茸振興会「乾しいたけについて」
- 農林水産省「きのこ類の基礎知識・乾物の利用」
- 大分県椎茸農業協同組合「原木乾しいたけの特徴」
\旬の食材をもっと美味しく♪/
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