~和ごはん歳時記~
季節がひとつ動くたびに、台所にも小さな変化が訪れます。
昔から受け継がれてきた行事や、その日に食べたい和のおかずたち——そんな“季節のしるし”を、日々のごはんといっしょに楽しんでみませんか。

「和ごはん歳時記」では、その月らしい習わしや、心ほっとする和のごはんをやさしくお届けします。季節の台所に、そっと寄り添うことができますように。

初午(はつうま)という行事は、名前は聞いたことがあっても、実際にどんな日なのかまでは、あまり知られていないかもしれません。

昔から、2月最初の午の日には、稲荷神社に手を合わせ、五穀豊穣や家内安全を願う習わしがありました。

油揚げやいなり寿司を供える風習も、そんな信仰の中から生まれたものです。

この記事では、初午の意味や由来とともに、家庭で無理なく取り入れるための考え方やヒントを紹介します。


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初午とは?

初午(はつうま)とは、2月に入って最初に巡ってくる「午(うま)の日」のことを指します。

毎年日付が決まっている行事ではないため、年によっては2月の初めだったり、中旬頃になったりと少しずつ変わります。

名前を聞いたことはあっても、「いつのこと?」「何をする日?」と聞かれると、はっきりとは答えられない――そんな行事かもしれません。

けれど初午は、古くから日本の暮らしの中で大切にされてきた年中行事のひとつ。五穀豊穣や家内安全を願い、稲荷神社に手を合わせる日として受け継がれてきました。

現代では、行事として意識される機会は少なくなっていますが、暦の中には、今も変わらず初午の日は巡ってきます。

「そういう日がある」ということを知り、少し気にかけてみる――
それが、年中行事を暮らしの中に取り入れる、最初のステップですね。

初午は、2月に行われる年中行事ひとつ。ほかの行事とあわせて知りたい方は、こちらも参考にしてみてください。
▶︎ 🔗2月の行事食まとめ

伏見稲荷大社

初午に油揚げやいなり寿司が食べられるようになった背景には、稲荷信仰と深い関わりがあります。

初午は、稲荷信仰と結びついた行事で、古くから、稲荷大神が初めて稲荷山に鎮座した日が「午の日」であったと伝えられてきました。
そこから、2月最初の午の日に神を祀り、五穀豊穣や暮らしの安定を願う習わしが生まれたとされています。

稲荷神は、もともと稲作を司る農耕の神として信仰されてきましたが、その信仰は次第に、家内安全や商売繁盛など、暮らし全体を見守る神へと広がっていきました。

自然の恵みに感謝し、これから始まる一年の営みを思う――
初午は、そうした人々の願いが静かに重なって生まれた、暮らしに根ざした信仰行事です。

稲荷神の使いとされるのが、狐(きつね)です。

狐が油揚げを好むと信じられてきたことから、稲荷神社では油揚げが供えられるようになり、その風習が、やがて家庭の中にも自然と根づいていきます。

油揚げにごはんを詰めた「いなり寿司」も、そうした流れの中で生まれた料理のひとつ。

いなり寿司は、神に供える食べ物であると同時に、家族で分かち合う日常の食卓の一品でもありました。
「狐=油揚げ」という印象だけが知られがちですが、その背景には、自然の恵みに感謝し、日々の暮らしの無事を願う、人々の素朴な信仰があります。


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初午に食べる行事食

初午の行事食の内容や形は、地域や家庭によってさまざまで、全国共通の決まりがあるわけではありません。

ここでは、初午の日に食べられてきた代表的な行事食を、いくつかご紹介します。

初午の行事食として、もっともよく知られているのが、いなり寿司です。
稲荷神の使いとされる狐が油揚げを好むという信仰から、油揚げを使った料理が供えられるようになり、そこから生まれたいなり寿司が、家庭の行事食として広まっていきました。
形や味に決まりはなく、地域や家庭ごとに受け継がれてきた、身近な行事食です。

ミニコラムいなり寿司の形にも、意味がある?

初午のいなり寿司。よく見ると、三角形だったり、ころんとした俵型だったり…。

「どちらが正解?」と迷ってしまいそうですが、実はそこにも、暮らしの中で育まれてきた考え方があります。

三角形のいなり寿司は、稲荷神の使いとされる狐の耳の形を表している、また、稲荷神社の総本社である伏見稲荷大社の稲荷山の形を模したと語られることが多い形。
西日本では「おいなりさん」と呼ばれて親しまれているようですね。

一方、東日本に多いのが俵型のいなり寿司です。俵型のいなり寿司は、米俵を思わせる姿から、五穀豊穣や実りへの願いを託したものと考えられてきました。

どちらが正解、というわけではなく、それぞれの土地や家庭が、初午という行事をどう受け取ってきたかの違い。

いなり寿司の形について、「このかたちはね…」と家族の会話を楽しむ時間が、初午を味わうひとつの楽しみなのかもしれませんね。

赤飯は、邪気を払う食べ物として、祝いごとや節目の行事で食べられることの多い料理です。

関東地方や中部地方の一部で、初午に赤飯を食べる地域もあり、五穀豊穣や家内安全を願う気持ちを、赤い色に託してきました。
必ず用意するものではありませんが、節目を意識する一品として、初午の食卓に添えられてきました。

土鍋でふっくら炊く、家庭向けの赤飯レシピはこちらで紹介しています。
▶︎🔗土鍋で炊く赤飯レシピ

関東地方・東北地方の一部では、紅白の団子を供える風習も見られます。

紅白は、めでたさや清らかさを表す色とされ、行事の際に用いられてきました。

団子は特別な料理というより、身近な材料で作れることから、家庭の中で無理なく行事を取り入れるための形として親しまれてきたものです。

富山県や岐阜県などでは、養蚕が盛んであった地域の伝統として、繭(まゆ)の豊作を願う「初午だんご」が作られることがあります。

これは養蚕を支える大切な家内作業に、初午という節目の日の祈りを重ねたもので、団子の形を繭に見立てて神様に供え、家族で食したと伝えられています。

しもつかれは、主に栃木県を中心に伝えられてきた郷土料理で、初午の行事食として知られています。

大根や人参、酒粕、大豆、鮭の頭などを煮合わせた料理で、家庭ごとに材料や味つけが異なるのが特徴です。

初午の日には、しもつかれを稲荷神社に供えたり、近所に配ったりする風習もあり、五穀豊穣や無病息災を願う、土地に根ざした行事食として受け継がれてきました。

見た目や香りに好みが分かれる料理ですが、「初午にしもつかれを作る」という行為そのものが、行事を大切にし、地域のつながりを保つ役割を果たしてきたともいえます。

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家庭で初午を迎えるとき、特別な準備は必要ありません。

立派なごちそうを用意するというよりも、油揚げを使った一品を食卓に添えるだけでも十分だと思いますし、忙しい場合は市販のいなり寿司を少し用意するのでもいいと思います。

いちばんは、「今日は初午の日だったな」と思い出し、日々の無事や、これからの実りに心を向けること。

忙しい毎日の中では、行事が後回しになってしまうこともありますが、無理のない形で続けられることこそが、暮らしに根づく行事のあり方なのかもしれません。


レシピ|初午に添える、いなり寿司

初午の行事食として親しまれてきた、いなり寿司。ここでは、家庭で無理なく取り入れやすい、基本の形をご紹介します。

酢飯のいなり寿司

材料(2〜3人分)
・味付き油揚げ(いなり用)……8枚
・温かいごはん……茶碗2杯分

〈酢飯用〉
・酢……大さじ1
・砂糖……小さじ1
・塩……ひとつまみ

・白ごま……適量(お好みで)

作り方

  1. 温かいごはんに、酢・砂糖・塩を加え、切るようにさっくり混ぜて酢飯を作る。
  2. お好みで白ごまを混ぜる。
  3. 油揚げを軽く開き、酢飯をふんわり詰める。
  4. 口を内側に折り、器に盛る。

ポイント
・酢の量は控えめにすると、油揚げの甘みとよく合います。
・ごはんは詰めすぎず、軽く入れると口当たりよく仕上がります。
・形は三角でも俵型でも〇。

いなり寿司に使う油揚げの種類や選び方、ほかの料理への使い分けについては、
こちらで詳しく紹介しています。いなり揚げレシピも♪
🔗和ごころ素材図鑑「油揚げ」


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おわりに|初午という行事を、暮らしの中で

2月の寒さの中で、昔の人は、これから始まる一年の実りや日々の無事を思い、静かに手を合わせてきました。
そして、その土地にある食材と暮らしの知恵を通して、行事はさまざまな形で受け継がれてきました。

忙しい毎日の中では、行事をすべて覚えて、きちんと行うことは難しいかもしれませんが、「今日は初午だったな」と思い出し、日々の暮らしを感謝する―――そんな余裕を持っていたいものだなぁと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

  • 農林水産省|和食文化・年中行事に関する解説
  • 文化庁|年中行事・民俗行事に関する資料
  • 栃木県公式サイト・郷土料理紹介(しもつかれ)
  • 岐阜県の郷土料理にみる「初午だんご」 — 農林水産省

※本記事では、一般的に知られている風習をもとに、家庭の食卓で取り入れやすい形でご紹介しています


初午のほかにも、2月には、暦や季節に寄り添った行事がいくつかあります。よろしければご覧ください。
▶︎ 🔗2月の行事食まとめ


節分の豆まきや行事食に込められた意味を、あらためて知ってみませんか。
▶︎ 🔗節分の行事食

節分を越え、立春を迎えてから始まる2月の行事。
暦とともに季節を味わう視点を、こちらの記事でもご覧ください。
▶︎ 🔗立春とは|食卓での楽しみ方

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