~和ごはん歳時記~
季節がひとつ動くたびに、台所にも小さな変化が訪れます。
昔から受け継がれてきた行事や、その日に食べたい和のおかずたち——そんな“季節のしるし”を、日々のごはんといっしょに楽しんでみませんか。

「和ごはん歳時記」では、その月らしい習わしや、心ほっとする和のごはんをやさしくお届けします。季節の台所に、そっと寄り添うことができますように。

「三日とろろ」という言葉を、聞いたことはありますか。

私自身の暮らしの中には、この習わしはありませんでしたが、正月の行事食を調べていく中で、日本各地に、1月3日にとろろを食べるという文化が残っていることを知りました。

全国共通の行事ではなく、さらにその地域でも必ずしも、すべての家庭で行われているものでもありません。
知っている人にとっては当たり前で、知らない人にとっては、初めて聞く——そんな距離感のある行事食です。先日紹介した私の地元で知られる1月2日の「すり初め(ぞめ)」と同じですね^^

この記事では、料理研究家としての立場から、三日とろろとはどのような食文化なのか、その背景と意味を、整理しながら紹介していきます。


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三日とろろとは

三日とろろは、正月三が日の三日目、1月3日にとろろ料理を食べる習わしを指します。

料理の形は一様ではなく、とろろご飯として食べる家もあれば、だしを張ったとろろ汁にする地域もあります。使う芋や味付けもさまざまで、「これが正しい形」と言い切れるものはありません。

また、三日とろろは、全国どこでも行われてきた行事食ではありません。地域によっては、名前だけが伝わっているところもあれば、存在そのものを知らないという人もいるようです。

三日とろろは、決まりごとの料理というより、正月の終わりに寄り添う、家庭ごとの考え方としての食という立ち位置なのではないかと思います。

三日とろろは、東関東で聞かれることの多い習わしとされています。

ただし、地域によって受け止め方はさまざまで、「必ず食べる正月料理」として定着している家もあれば、「昔は聞いたことがある」という程度の記憶として残っている場合もあります。

また、同じ地域の中でも、家によって食べる・食べないが分かれることも珍しくありません。

このように、三日とろろは土地よりも、家庭ごとに受け継がれてきた行事食とも言えそうです。

◆ 正月のごちそうを終えるための食

おせち料理や餅、酒肴など、正月の食卓は、どうしてもごちそうが続きます。

1月3日は、そうした正月の流れがひと段落する日。三日とろろには、ごちそう続きの食生活を、いったん整えるという意味が込められてきたようです。

「精をつける」というよりも、「身体を休める」「日常に戻る」ための一杯。三日とろろは、正月を締めくくる役割を担う食事だったと考えられます。

とろろは、白く、やわらかな料理です。日本の食文化では、白い食べ物は「清め」や「区切り」を象徴することが多くあります。

年のはじめの数日間を終え、新しい日常へと向かう節目に、白いとろろを口にする。

三日とろろには、正月という特別な時間から、普段の暮らしへ戻るための、静かな合図が込められていたのかもしれません。


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レシピ|基本の三日とろろ(とろろご飯)

三日とろろには、決まった作り方があるわけではありません。使う芋も、味付けも、食べ方も、地域や家庭によってさまざまです。

ここでは、家庭で作りやすい「とろろご飯」の基本形を、あくまで 一例 として紹介します。

  • 長芋(または大和芋)……200〜250g
  • だし……50〜80ml
  • しょうゆ……小さじ1〜1と1/2
  • 温かいご飯……適量

※麦ご飯を使う地域もあります
※卵を加える家もありますが、ここでは入れていません
※味噌を加える家庭もあるようです。

  1. 芋の下準備をする
    芋は皮をむき、すり鉢、またはおろし金でする。
  2. だしでのばす
    すった芋に、だしを少しずつ加え、
    とろみを見ながらのばしていく。
  3. 味を整える
    しょうゆを加え、
    ご飯にかけたときにちょうどよい塩気になるよう調整する。
  4. 盛り付ける
    温かいご飯にかけ、
    好みで刻み海苔や小ねぎを添える。
  • だしは一度に加えず、少しずつ
  • 味は「そのまま食べると薄いかな?」くらいが適量
  • 芋の種類によって、だしの量は調整する

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芋の種類で変わる、三日とろろの印象

三日とろろに使う芋が決まっているわけではないようなので、そのときに手に入った芋で◎。ですが、選ぶ芋によって、仕上がりの印象が大きく変わるので、参考にしてみてください。

水分が多く、さらりとした口当たり。だしを濃く控えめにし、軽やかに仕上げるのが向いています。

粘りが強く、濃厚な食感。だしをやや多めに加えてのばすと、重たくなりすぎず、食べやすくなります。

三日とろろは、分量をきっちり量って作る料理というよりも、芋の状態や、その日の体調、正月の食卓の流れに合わせて、少しずつ整えていく・・・これが正解かと思います。


ミニコラム 南信州では「すり初め(すりぞめ)」という文化がある

正月のとろろ料理には、地域ごとに異なるかたちがあります。

たとえば長野県南信州では、1月3日の「三日とろろ」ではなく、1月2日に「すり初め(すりぞめ)」と呼ばれる料理を食べる習わしが伝えられてきました。

南信州のすりぞめは、長芋をすり、だしでのばし、熱いご飯にかけていただく一杯。
日付も呼び名も異なりますが、正月のごちそうから日常へ戻るための食、という役割は、三日とろろとよく似ています。

同じ「とろろ」という料理でも、地域によって位置づけや意味が変わる。そこに、日本の食文化の奥行きを感じますね。

南信州の「すり初め」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
▶南信州「すり初め」レシピ🔗


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おわりに

三日とろろは、必ず食べなければならない行事食ではありません。知らずに育ったとしても、何かを欠いているわけでもありません。

けれど、正月の終わりに、身体と気持ちをいったん整える——
そんな発想が、1月3日のとろろというかたちで残されてきたことを知ると、日本の台所のやさしさが、少し身近に感じられます。

行事食は、守るための決まりごとではなく、暮らしに取り入れるための知恵だと思います。

三日とろろもまた、知っているだけで十分な文化であり、もし気が向いたら、静かな一杯として食卓に迎えてみる。そのくらいの距離感が、今の暮らしには、ちょうどいいのかもしれませんね。


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▶ 1月行事食まとめ🔗

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