秋風が吹くころ、どこからともなく漂ってくるあの独特の香り・・・。
銀杏の季節がやってきた合図です。

茶碗蒸しの中でつやつやと光る一粒、串焼きでほくほくと香ばしく焼かれた一粒、松茸の土瓶蒸しなどにもおなじみ――。
銀杏は秋の味覚として欠かせない存在ですね。

この記事では、銀杏の特徴や旬、下処理、保存方法、そしておすすめの食べ方など、銀杏の魅力をご紹介します。


銀杏とは

「銀杏(ぎんなん)」とは、いちょうの木になる「種子のこと。
秋になると、黄色く熟した実の中から、硬い殻に包まれた銀杏が現れます。

いちょうは「生きた化石」とも呼ばれ、約2億年前から姿を変えずに存在してきたといわれます。中国原産で、日本には平安時代頃に伝わり、寺社仏閣の境内や街路樹として広く植えられるようになりました。

香りの強い果肉は素手で触るとかぶれることもあるので、収穫時は注意が必要です。
その内側にある硬い殻を割ると、あの美しい翡翠色の実が顔をのぞかせます。

ほくほくした食感と、ほのかな苦み。
見た目の上品さも相まって、懐石料理や料亭の八寸などにも欠かせない秋の味覚ですね。

ミニコラム|「いちょう」と「銀杏」―名前の不思議―

「銀杏」と書いてイチョウ?ぎんなん?ほんとはどっち?と疑問を感じたことありませんか?正解はどちらも〇。

現在は、秋の黄葉を「いちょう」、その実を「銀杏(ぎんなん)」と表記されるのが多いですが、もともとは同じ漢字が使われていました。

「銀杏」という字は、中国では“ぎんあん”と読み、樹木そのものを指していたのだそうです。

日本に伝わった際、葉の形が「鴨の足(いちょう)」に似ていることから木を“いちょう”、実の部分を“ぎんなん”と呼ぶようになり、同じ字で異なる読みを持つ少し不思議な存在になりました。

この呼び分けには、言葉を通じて自然を丁寧に見つめてきた日本人らしい感性が感じられますね。


旬と産地

銀杏の旬は、10月から12月にかけて
いちょうの葉が黄金色に染まるころ、ちょうど収穫の時期を迎えます。

そのため、黄葉と銀杏の実は「秋の風物詩」として、季節の景色と味覚を同時に楽しめるのが魅力ですね。

主な産地は、愛知県稲沢市の「祖父江銀杏(そぶえぎんなん)」が全国的に知られています。
粒が大きく、色つやの美しさと、火を通したときの香り高さが特徴。
ほかにも、奈良県、岐阜県、東京の国分寺なども産地として知られています。

地方によって品種や風味が少しずつ異なり、なかには小ぶりで香りが強いもの、大粒で食感がねっとりとしたものなどもあります。産地を比べて味わってみるのも、秋ならではの楽しみ方ですね。


種類と特徴

祖父江ぎんなん

銀杏にはいくつかの品種がありますが、粒の大きさや殻の色合い、香りの強さによって個性が分かれます。代表的なものをいくつかご紹介しますね。

  • 祖父江銀杏(そぶえぎんなん)/愛知県稲沢市
     全国的に有名なブランド銀杏。粒がふっくらと大きく、火を通すと鮮やかな黄緑色に変化します。香りが上品で、料亭や割烹でもよく使われる高品質な品種です。
  • 藤九郎銀杏(とうくろうぎんなん)/奈良県ほか
     大粒で、ねっとりとした食感が魅力。加熱すると甘みが強く、おつまみや炊き込みごはんにも向きます。
  • 久寿銀杏(くすぎんなん)/岐阜県など
     やや小ぶりながら、香ばしい香りと濃い味わい。焼き銀杏や炒め物など、香りを楽しむ料理におすすめです。
  • 殻の厚みや実の締まり具合によって、加熱時間や食感が異なる。
  • 新鮮なものほど、翡翠色が鮮やかでつやがある。
  • 軽く振ったときに音がしないものは、中がしっとり詰まっている証拠
  • 逆に、軽すぎるものやカビ臭のあるものは避けましょう。

選び方といっても、殻の状態から特徴や良し悪しを判別するのは難しいですよね。

銀杏はどの品種も、加熱すると独特の苦味と香りが立ち上がります。
大小であれば、大粒は食感を、小粒は香りが強いので風味を楽しむ・・・といった選び方もできます。


栄養と効能

小さな粒の中に、秋のエネルギーがぎゅっと詰まった銀杏。
見た目は素朴でも、栄養価の高い木の実です。

  • でんぷん質
     主成分で、体を温めるエネルギー源になります。ほくほくした食感のもと。
  • ビタミンC
     加熱しても比較的壊れにくく、風邪予防や美肌づくりに役立ちます。
  • カロテン(β-カロテン)
     体内でビタミンAに変化し、粘膜や肌の健康を守ります。
  • カリウム
     体内の塩分を排出し、むくみや高血圧の予防に。
  • タンパク質・脂質
     少量ながらバランスよく含まれ、滋養強壮にも効果的です。
  • 体を温める作用があり、冷え性や疲労回復におすすめ。
  • 抗酸化作用を持つ成分が、老化防止や美肌づくりをサポート。
  • 消化吸収がよく、食欲の落ちやすい秋口にもぴったり

銀杏には「メチルピリドキシン」という成分が含まれており、大量摂取や生食は中毒を引き起こすことがあります。

🔸 安全に食べるために

  • 必ず加熱調理すること。
     煎る・焼く・揚げる・蒸す・炊くなど、中心まで火を通せば安全に食べられます。
  • 一度に食べすぎないこと
     目安は
      → 大人:10粒前後まで
      → 子ども:1〜2粒程度

特に茶碗蒸しや焼き銀杏のように、しっかり火を通す調理法が安全でおすすめです。

昔から銀杏は「秋の滋養食」として親しまれてきました。
ほどよい苦みには、体を目覚めさせるような力があるとも言われます。
少しずつ、大切に味わう――そんな食べ方が似合う食材ですね。


下処理と保存方法

銀杏は、外側の果肉・硬い殻・薄皮に包まれた三重構造。
おいしく、見た目も美しく仕上げるには、少しの手間がポイントです。

🟢 果肉を取り除く

落ちて間もない実は、果肉が柔らかく独特のにおいがあります。
手袋をして、果肉を取り除き、水で洗うのが基本です。

  • ゴム手袋をつけて果肉をこすり落とす。
  • 水にしばらく浸けてからこすると、きれいに取れやすい。
  • よく洗って乾かしてから保存すると、カビや臭いを防げます。

※果肉に含まれる成分で手がかぶれることがあるため、必ずゴム手袋を着用してください。

ミニコラム|昔ながらの「果肉を腐らせて取る」方法

収穫したばかりの銀杏は、果肉がねっとりしていて取り除くのがひと苦労。昔から農家などでは、果肉を自然発酵で柔らかくしてから取り除く方法が使われてきました。

やり方は簡単で、果肉つきの銀杏をバケツやビニール袋に入れて数日置くだけ。
水を少し加え、風通しのよい日陰に3〜5日ほど置いておくと、果肉が自然に分解されて実からスルリとはがれます。

この方法のよいところは、力を入れなくても果肉が取れること。
ただし、発酵が進むと強いにおいが出るため、注意が必要です。
また、果肉には刺激成分があるため、作業の際はゴム手袋・マスクは必須。ゴーグルを着用すると安心です。

しっかり水洗いして乾かせば、殻が美しく仕上がります。
大量に処理する際には、今でも現場で使われる“秋の知恵”のひとつです。

家庭ではにおいの問題があるため、少量なら手早く洗い流す方法の方が扱いやすいです^^。

🟢 殻の割り方

銀杏は硬い殻に包まれているため、加熱前に軽く割れ目を入れるのがポイントです。
こうしておくと、加熱時の破裂を防ぎ、きれいに中身が取り出せます。

基本のやり方
  • 専用の「銀杏割り器」があると便利。
  • なければ、ペンチやナットクラッカーで軽くヒビを入れる。小さな金槌を使ってもOK(怪我には十分ご注意を!)
  • 力を入れすぎず、「パリッ」と音がする程度で止めるのがコツ。
封筒+電子レンジ法(簡単・おすすめ)
  1. 殻に軽く割れ目を入れた銀杏を、紙製の封筒に入れる(20粒ほどまで)。
  2. 封を軽く折って閉じ、電子レンジ(600W)で40〜50秒ほど加熱。
  3. 「パンッ」と音がしたらすぐに取り出す。
  4. 火傷に気を付けて、なるべく熱いうちに殻をむくと、つるりと実が出てくる。

👉 封筒が焦げやすいので、連続加熱は避けて少量ずつ行うのが安心。
👉 封筒が破けそうなときは、新しいものに替えてください。

封筒の中でほどよく蒸されるため、実がしっとりと仕上がります。
フライパンで炒るより手軽で、殻もむきやすい家庭向けの方法です。
※この割り方は、乾煎り・電子レンジ・素揚げ・茶碗蒸しなど、
どの加熱方法にも共通して使える安全な下準備です。

🟢 薄皮のむき方(3通り)

  1. 熱湯法
     熱湯に10秒ほど入れ、冷水にとると皮がスルッとはがれます。
  2. フライパン法
     乾いたフライパンで軽く炒り、キッチンペーパーでこすってむきます。
  3. 電子レンジ法
     封筒に入れ、電子レンジ(600Wで30〜40秒ほど)で加熱。
     はじける音がしたらすぐ止めて取り出し、温かいうちに皮をむく。

殻つきのまま保存する場合

  • 風通しのよい冷暗所で、1〜2週間ほど保存可能。
  • 湿気が多いとカビやすいので、紙袋などに入れておくと安心。

むき銀杏を保存する場合

  • 殻・薄皮をむいた銀杏は乾燥しやすいので、冷凍保存がおすすめ。

冷凍の手順

  1. 殻と薄皮をむく。
  2. 軽く塩ゆでし、水気をしっかり切る。
  3. 粗熱を取って冷凍用袋へ入れ、空気を抜いて密閉。

→ 約1か月間保存可能。
使うときは、凍ったまま加熱調理できます。

むきたての銀杏は、翡翠のような透き通った緑色をしています。
時間が経つと少しずつくすんでしまうため、できるだけ早く調理するのがおすすめです。


美味しい食べ方

銀杏は、加熱の仕方で香りも食感もがらりと変わる食材です。
「煎る」「焼く」「揚げる」「蒸す」「炊く」——。それぞれの調理法に、秋らしい味わい方があります。

フライパンを使って加熱する「煎り銀杏」は、最もポピュラーで手軽な楽しみ方。
殻に軽くヒビを入れ、乾いたフライパンで中火〜弱火で転がしながら炒ります。
「パンッ」と殻がはじけたら食べごろ。

  • 焙煎香が立ち上がり、ほくほくとした食感が魅力。
  • トースター使用も◎。軽くヒビを入れた銀杏を、オーブントースターで10分程加熱。焼き色がついたら殻から取り出します。
  • 塩をひとつまみ添えれば、秋のおつまみが完成。

香ばしい香りとほのかな苦味が広がり、秋の訪れをしみじみ感じます…v.v。

串に刺して炭火で焼く「焼き銀杏」は、料亭でも秋の定番。
炭火や魚焼きグリルでゆっくり焼き上げることで、
外側は香ばしく、中はほくっとやわらかく仕上がります。

  • 軽く焦げ目をつけると、香りがぐっと深まる。
  • 塩だけで十分な旨み。
  • 炭火・七輪を使うと、香ばしさが格別。

まるで焼き栗のような香りと、銀杏特有のほろ苦さが調和します。
日本酒や焼酎のあてにもぴったりです。

素揚げにすると、銀杏の風味がまるく、甘みが引き立ちます。
油で軽くコーティングされることで、しっとり感が増し、冷めてもおいしいのが特徴。

  • 170℃前後の中温で1〜2分ほど素揚げに。
  • 塩のほか、抹茶塩・柚子塩などで上品に。
  • 八寸や前菜の一品としても映える。

焼くよりも柔らかく、香ばしさの奥にやさしい甘みが広がります。
料亭でも“秋のひと粒”として重宝される調理法です。

なめらかな卵生地の中に、翡翠色の銀杏を忍ばせる。
それだけで、ぐっと季節感が生まれます。

  • 下処理した銀杏を器に2〜3粒ずつ、お好きな具材と一緒に入れ、卵液を注ぐ。
  • 弱火でゆっくり12分ほど蒸して仕上げる。
  • 出汁と銀杏の香りが重なり、上品な一品に。

銀杏は“秋の実り”を象徴する縁起物。
茶碗蒸しの中で静かに光る姿に、季節のしつらえを感じます。

炊き込みごはんにすると、銀杏の香りと食感が引き立ちます。
塩と出汁だけのやさしい味付けで、秋らしい香りを楽しめます。

  • 米2合に銀杏20粒ほど、出汁・塩・酒で炊く。
  • 炊き上がったらさっくり混ぜ、三つ葉や黒ごまを添えて。
  • むき銀杏を冷凍しておけば、思い立った時にすぐ作れる。

ふたを開けた瞬間に立ちのぼる香りが格別。
秋の食卓をほっこりと包み込む、やさしい味わいです。

ひとことまとめ🍵

  • 「煎る」→香ばしく軽やか
  • 「焼く」→香り深く食感しっかり
  • 「揚げる」→まろやかで上品
  • 「蒸す」→出汁と調和したやさしい味
  • 「炊く」→香りとほくほく感を同時に楽しめる

いろいろな調理法で楽しんでみてください♪


🍳 おすすめレシピ

香ばしさの中に、やわらかい甘みとほろ苦さが広がる一品。
焼き銀杏よりもふっくら、まろやかに仕上がります。
お酒のおつまみはもちろん、小鉢や八寸の彩りにもぴったりです。

レシピ|銀杏の素揚げ

材料(2人分)
・銀杏(下処理済)…20粒ほど
・塩…少々
・揚げ油…適量

作り方

  1. 銀杏の薄皮をむき、キッチンペーパーで水気をよく拭き取る。
  2. 小鍋に1〜2cmほどの深さで油を入れ、中火で170℃ほどに温める。
  3. 銀杏を入れ、**ぷっくり膨らんで薄く色づくまで(1〜2分)**揚げる。
  4. 網ですくって油を切り、熱いうちに塩をふる。

👉 高温すぎると弾けやすいので、やや低温で様子を見ながら揚げるのがコツ。
👉 塩の代わりに抹茶塩・柚子塩を添えると、料亭風の上品な味わいに。

定番茶碗蒸しの、小さい名脇役です。

レシピ|銀杏入り茶碗蒸し

材料(2人分)
・卵…2個
・出汁…300ml
・しょうゆ…小さじ1/2
・塩…少々
・みりん…小さじ1/2
・銀杏(下処理済)…6〜8粒
(鶏肉・エビ・かまぼこ・三つ葉などのお好きな具材と一緒に)

作り方

  1. 卵を溶き、出汁と調味料を加えてよく混ぜる。
  2. 器に銀杏と具材を入れ、卵液を注ぐ。
  3. 蒸気の上がった蒸し器に入れ、弱火で約12分蒸す。

👉 ポイント:蒸しすぎるとすが入るので、やさしい火加減で。

素朴でやさしい、秋らしい旬を感じられるご飯です♪

レシピ|銀杏ごはん

材料(2合分)
・米…2合
・銀杏…20粒ほど
・出汁…360ml
・塩…小さじ1/2
・酒…小さじ1

作り方

  1. 洗った米に出汁・調味料を入れ、銀杏をのせて炊く。
  2. 炊きあがったら、軽く混ぜて蒸らす。
  3. 器に盛り、三つ葉や黒ごまを添えると彩りよく。

👉 ポイント:むき銀杏を冷凍しておくと、思い立ったときにすぐ作れます。

🍁 ミニコラム|茶碗蒸しに銀杏を入れる理由

茶碗蒸しの中の銀杏には、「秋の実りを表す縁起物」という意味があります。
ひと粒で「千年の実」を連想させることから、長寿や繁栄の象徴としても親しまれてきました。

また、滑らかな卵生地の中にひとつだけ現れる銀杏は、まるで宝探しのよう。
「季節の小さな喜び」を感じさせる、和食ならではの美しい演出でもあります。


おわりに|秋の香りを、ひと粒ずつ

殻を割って、ひと粒ひと粒の銀杏を取り出す時間。少し手間はかかりますが、その作業も秋のたのしみのひとつです。

焼いて、炊いて、茶碗蒸しに――。
どんな料理にも、ほくほくとした香りとやさしい苦みに秋を感じられます。

ぜひ、黄葉のいちょう並木を思い浮かべながら、秋の深まりを堪能してみてください♪

📚 参考元

  • 農林水産省「旬の食材:ぎんなん」
  • 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」ぎんなん(ゆで)
  • 稲沢市観光協会「祖父江ぎんなん」

※本記事は上記資料を参考に、伝統的な調理法および地域の食文化をもとに再構成しています。

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